ハイクノミカタ

わが腕は翼風花抱き受け 世古諏訪【季語=風花(冬)】


わが腕は翼風花抱き受け

世古諏訪

掲句は、句集『醉芙蓉』より。作者世古諏訪の最後の句集から引いた。諏訪は昭和3年生れ、令和3年没。「駒草」入門は昭和26年。「駒草」の花形作家として一時代を築き(昭和30年代前半の「駒草」の雑詠欄は、諏訪時代だったと言ってもよいほど巻頭を取っている)、みどり女没後は重鎮として歴代主宰を支えた。

私が影響を受けた「駒草」の人々、「良い句とは何だろう」と考えさせられた駒草先人の俳句というテーマで書いてきた本連載だが、掲句は今までと大分傾向が違う。掲句はわかりやすい。そして(いい意味で)甘い。それもそのはずで、作者の世古諏訪自身、自分は高校時代からの師系の繋がりがあって純粋の駒草人ではなく、自分はもともとは外様と言っていた俳人である。

この句の抒情は、みどり女の非情とは大分違う。みどり女は、対象を愛情をもって見るが、あとは省略して非情に一句にしてしまう。諏訪俳句は疲れた暮らしの中でも、言語操作の巧みさでピュアな世界を作り上げていく。俳句にすることによって対象への愛を深める。また、諏訪俳句には、見立ての技が目立つ。〈野火を見るわがたてがみの白交り〉(『雪の鴨』)。掲句も己の腕を「翼」と言っている。楽天的だ。明るい。しかし、「風花」の儚さは、どこか死を意識している作者をひしひしと感じさせる。光と影。諏訪の俳句はいつも明るく、どこか儚さを感じさせ、そして人間の善意に満ちている。それは多分に表現へのひねりのかけ方というか演出によるところもある。若い頃から、それは諏訪俳句の一貫した特色。

子を抱いてゆく霧の灯を胸に点け

薔薇剪るや露滴つて翳濡らす

海の反射月のコスモスなだれ飛ぶ

黍あらし影も細身に馬駆くる

句集『蒼沖』より

措辞の工夫に目を引かれる。「霧の灯を胸に点け」。まさにセンチメント(感情の入った思考)がある。「わが腕は翼」の措辞も知的操作であって、口の悪い人からかなり加工を加えた写真にたとえられても文句は言えない。しかし「写生に始まり写生に終わる」と言ったみどり女は諏訪俳句を認めたのだから、これらの句を知ったときに私は素直に「みどり女ってすごいな」と思い、またみどり女の考える写生の行き方というものに関心を強くしたのだった。

筆者に

わが深きところへ飛雪息晒す 芳直

(『夜景の奥』)

という句があるのは、今にして思うと諏訪の影響だろう。もっとも、諏訪の透明な明るさに対して、私の句は少し、暗い。

私の句への諏訪の影響は、上掲の句だけではない。その美意識、ユーモアのセンス。今、諏訪俳句を読み直してその影響の大きさを改めて感じている。

夕焼のほろびの色のなべて濃き  諏訪『雪の鴨』

夕方に包まれてゆく磯遊び    芳直

一休符ありてふたたび師走の雪  諏訪『雪の鴨』

電飾に駅に師走の雪しづか    芳直

かけてみる社長の眼鏡萬愚節   諏訪『雪の鴨』

春昼の酔うてもムツオにはなれぬ 芳直

夕べの景色を句材として好んだ諏訪。「師走」の因習的な含みを嫌った諏訪。ちょっとした遊び心を大切にした諏訪。私の俳句には、諏訪俳句が養分として染み通っているようだ。

ちなみに遊び心の方、蛇足ながら諏訪のモットーは「忍と純」(『醉芙蓉』あとがき)。仕事は忍、俳句は純、それが一つになることを願ってきたという。それは真面目な心からの願いには違いないが、出典は菊池寛の「麻雀の極意は忍の一字なり」だとか(「駒草」昭和42年3月号)。こんなお茶目さも諏訪俳句というか、世古諏訪という人の魅力であった。

*****

諏訪は自らを「駒草」の「外様」と語っていたと書いたが、出身高校は松江高校(旧制)。昭和20年、淞高俳句会を再興し、俳誌「みづうみ」を創刊している。その貴重な一冊が現在筆者の手元にあるが、当時松江にいた石橋秀野の寄稿がある。句会にも呼んでいたようだ。当時の思い出として諏訪が筆者に語ってくれたことにこんな話がある。諏訪が〈老鶯や山をそびらに温泉の里〉(「みづうみ」第六号雑詠巻頭、佐川雨人選)と作って高点句になったとき、秀野に手厳しく批判されたという。「老鶯なんて何言っているのですか。若いのだから俳句にもっと若さをぶつけなさいよ。ホトトギスなんかにいるからそうなるのですよ」。「鶴」にいた秀野は強烈な虚子批判、ホトトギス批判をいつも句会で繰り広げていた。キップのいい秀野は高校生の憧れの的、諏訪もそれ以後、「老鶯」の句は一句もなく、あるのは「夏うぐひす」の句だけだと言い、このエピソードは文章にもなっている(世古諏訪「俳句交友録-9-石橋秀野と安西冬衛」「俳句研究」1999年9月号)。その後、「みづうみ」の選者は「ホトトギス」の佐川雨人から「石楠」の福島小蕾に交代し、その事実に立ち会った人間としては、山本健吉編集の秀野の句文集『櫻濃く』の秀野は、虚子信奉者のように見えるように作られていると不満を漏らしていた。

その諏訪が「駒草」との縁を得るのは、昭和26年、就職して細倉鉱山に赴任し、職場句会の指導者が阿部みどり女だったことから。細倉の句会では、個性を主張する諏訪に、みどり女は「個性と癖とは似て非なるものですよ」。きびしいみどり女に魅せられたと述懐している(「なおもきびしく」「駒草」1975年10月号)。昭和32年、第3回一力五郎賞、昭和36年、第6回駒草賞。同年現代俳句協会会員、昭和47年現代俳句協会を退会、俳人協会会員(協会移籍の理由については真島楓葉子の回で言及したが、みどり女以下「駒草」門は俳人協会設立後10年以上経ってから協会移籍というのが印象深い)。

ただ、諏訪が「駒草」一筋になったのは、昭和31年のことで、その年の「駒草」の二十句競詠で真島楓葉子と一席、二席を分け合い、楓葉子と切磋琢磨していくことを決めたからだという(「鷗子と楓葉子」「駒草」1976年5月号)。また駒草賞受賞時には、みどり女に「あなたはいずれ駒草を出て一誌を持つでしょうから、その前に駒草賞を差し上げたのですよ」と言われたと笑っていたが、結局その後、駒草の一同人として俳句人生を全うした。とは言え、やはり諏訪の句はやはり「駒草」では異端的で、仕事で忙しい諏訪は東京時代、「自己催眠」を通勤中にかけ、電車の中で目を瞑り、そこで浮き上がって来た田んぼ、野山、川、海で俳句を作っていたという。強いて言えば、句材として自然物を好んだことは、みどり女と通じるのかもしれない。なお、細倉の後は、香川の直島、神戸、いわき、東京と、同じ工場を複数回転々としており、各句集には当然「自己催眠」の句以外の正真正銘の各地の句も多くて楽しい。

著書に、句文集『蒼沖』(竹頭社、昭和36年、鉱山文学賞)、句集『花辛夷』(駒草発行所、昭和53年)、『雪の鴨』(駒草発行所、昭和63年)、『醉芙蓉』(私家版、平成28年)。ほか、本名世古正昭で著した方言研究書『細倉の言葉』(三菱金属鉱業細倉鉱業所文化会、昭和31年)がある。『細倉の言葉』は、諏訪が勤めていた宮城県の細倉で採集した方言辞書で、発音記号を付したのが当時としては新しく、話題を呼んだ。今でも何かと参照されることのある一書のようである。

諏訪は、高校受験では医者を目指して理系コース(敗戦を見越してのことだったという)に進むが、戦後の状況を見て進路変更、大学は経済学部に進む。しかし、ずっと言葉への関心があったようだ。第一句集『蒼沖』所収の「現代俳句と国語」の評論は、今でも優れた俳句表現入門として一読を勧められる(筆者は大学時代、諏訪の「現代俳句と国語」を「駒草」連載版で読んで、俳句表現に有用な文法知識があることにはじめて自覚的になった)。長女に歌人の河路由佳(日本語教育学者)がいる。

なお、昨年2023年の「NHK俳句」8月6日放送分で、諏訪の〈燈台が赤くて海月身をしぼる〉(『雪の鴨』)が取り合わせの例句として紹介されている。

*****

世古諏訪論は句集『醉芙蓉』の解説として長文を記したことがあるので、そちらをご覧いただきたい。今回は、そちらに書かなかった個人的な思い出を記しておきたい。諏訪さんは、私にとって最初に「薫陶を受けた」俳人である。その最初はあくまで誌上でのことだが、のちには実際にお会いしていろいろとお話を伺うこともできた。師弟関係ではない先輩として、お教えいただいたのが印象深い。

「駒草」に入門した当時、私はほんの子供で、句会に行くでもなく、主宰蓬田紀枝子の雑詠選に、毎月5句作って5句投句するだけの俳句との関係だった。自分の書いた文字が活字になるのがうれしいというような、それだけのお付き合いだった。当時の「駒草」で主宰の選評が付くのは3句掲載組までで、1、2句組については、1月遅れで主要同人による鑑賞コーナーがあった。

ちょうど私が入門する頃、その1、2句欄鑑賞の担当になったのが諏訪さんで、子どもの私の句をよく取り上げてくれた。軽妙な筆致で「私なら、ここはA、B、Cという表現で迷うが読者はどうか」とか、作句工房の手の内を見せてくれるのも面白かった。「迎え梅雨、梅雨半ば、送り梅雨」入れ替えてみてやっぱり作者の選択で正解だとか、音読したときの音の響きが良いとか、「見たままを正直に、季語を入れて作りましょう」しか手がかりのない人間にとっては誠にありがたい。後年知ったことだが、この1,2句欄の鑑賞コーナーが最初に創設されたのは昭和39年で、その担当が世古諏訪さんだったため、再担当にずいぶん気合が入っていたようだ。昭和39年当時の諏訪さんは該当コーナーを「四季の泉」と名付け、1年ちょっと連載したのち、八木澤高原(「駒草」2代主宰)と交代。その後、コーナー自体が一旦消滅している。本人談では、あんまり「私ならこうする」をやりすぎて、みどり女選を経た句について若造の諏訪がいちゃもんをつけるのは不遜だということで交代になったらしい。長い時を経て復活したコーナーへの再登板という事情から思いの強い欄だったようで、担当するに当たって欄の名前を昔の「四季の泉」に改めて健筆を振るっていた。そのおかげをもって、私は諏訪さんの鑑賞に励まされながらやがて3句組へ昇格、無事主宰の選評をいただけるようになった。私の句集に収録した期間の前史にあたる部分である。

春めいて突然じいの墓参り 浅川芳直(六歳)

“突然〟がいい。これまた芳直くんにとってオドロキだったのだ。おじいちゃんに

とっては予定の行動だったかもしれないが。(「駒草」1999年8月号)

草刈りの父の後ろに青蛙 浅川 芳直(小一)

父の姿は見馴れたものだが、その後にいる青蛙にはおどろいた。つやつやと青緑が美しいのだ。この感動こそ俳句のもと。(「駒草」1999年11月号)

諏訪さんにいただいた評。今読み返すと、子ども相手であっても、鑑賞のツボ、創作のツボの自覚を促すような書きぶりに改めて頭が下がる。そして、こんな風に書いておきながら、大人向けには「○○に一つの△△」とか「○○裏の」とかいった「ツボを押さえて拵えるのはいかんよ」と繰り返し書いていらっしゃった。自分の取り上げられているところだけしか記憶していなかったが、「突然」の驚きや、裏側、側面から捉える物の見方を推奨しつつ(これらはまさに俳句の作句のツボだろう)、同時にそのレベルでマンネリに陥ることを戒めるという、なかなか高度な初心者向け鑑賞欄だったと思う。

俳句も目立っていた。諏訪さんは毎回五句、同じ季題の連作を出していた(みどり女時代から同人欄では時折そうした試みをしていたのを確認できるが、毎月となったのは二代高原主宰時代の後半から)。駒草集同人の特別作品十句も、前半同じ季題五句、後半別の季題五句。主宰の蓬田紀枝子の句の飛躍、省略は、正直当時子どもの私にはまったくピンと来ない難しいものだったが、諏訪さんは毎回同じ季題で五句揃えるので、一句ではわかりにくいかもしれない句も、連作(本人は頑なに「群作」と仰っていた。秋櫻子式の絵巻物ではないのだ、という意図である)になると何となくわかるのである。

珈琲にクリームの渦野分なか

次の間の灯も点しけり野分なか

塾の灯のはや点りをり野分あと

折れ枝の白きが匂ふ野分あと

心待ちいやいや二百十日かな

       「駒草」2001年12月号

五句すべて同じ季題なので習作的なにおいは免れない。しかし、一句独立では、子ども時代の私には〈折れ枝の白きが匂ふ〉に着眼する感覚はきっと「わからない」ものだったと思う。一句目のコーヒーの香りがあり、二句目、三句目の人の暮らし、電灯の白さがあり、そしてそこに引っ張られて四句目の匂い、五句目の心持ちが共感できる。今なら、「一句目と四句目だけ残せばいいじゃないですか」と簡単に言えてしまうのだが、白状してしまえば、私は諏訪さんの連作によって、徐々に俳句の省略、飛躍に慣れていったような気がする。

後年、第四句集『醉芙蓉』の編集をお手伝いしたとき、「どうして同じ季題にそろえるのですか。連作的に作った句だとしても、発表の際はその月のベストの句を選んで出せば良いではないですか?」と聞いてみたことがある。そのとき、諏訪さんは「同じ季題で一定レベルの句を揃えられないようでは芸がない」とだけ答えた。戦後の論戦激しかった時代の俳人のこだわりがどこから生まれたのか、私は今でも少し不思議に思っている。

*****

本連載が私の句集の宣伝も兼ねて、という企画であることに便乗して、もう少し自分の話を。私が諏訪さんにかけていただいた言葉の中で忘れられないものは、「俳句」2019年6月号の結社新鋭特集に発表した〈電灯のひそかな異音さくらの夜〉という句他いくつかを挙げて、「一見詩語にならないような生硬な言葉を頭に持ってきて、やわらかな季題で締めて句にするのは貴方の個性だ」とお手紙をいただいたこと。これは今でも、私の俳句で大事にしていることの一つである。そして、まったくの偶然ながら、この時の句を読んだ高橋睦郎先生が駒草発行所にわざわざ葉書を下さって、西山主宰がコピーを転送して下さった。そこに書いてあったのは「この人の鋭さと柔らかさの兼ね合いは絶妙と存じます」。

当時の私は、諏訪の第一句集のタイトルとなった〈(あお)(おき)へ潮が抱き去る海月の屍〉に刺激を受け、きめやかな情感を少し乾かすような作り方に憧れていた。ウェットな部分、甘い部分を、もう少し「駒草」らしい写生に近づけようと自分なりに試行錯誤していた頃だった。それを表現のレベルに落とし込んでヒントを頂いたような気がして、本当にありがたいことだったと思っている。

句集の謝辞には、書籍刊行に関してご助言いただいた先生方だけでなく、あの時、大いなる指針を与えてくださった諏訪さん、高橋先生のお名前を挙げるべきだったと、今、わが至らなさを後悔している。この場を借りて、きちんと感謝を示しておきたい。本当にありがとうございます。

*****

なんだか、諏訪さんを通して語る自己理解のような文章になってしまった。

諏訪さんは晩年、自宅から100メートルほどの介護付き高齢者住宅に住んでいて、私が会いに行くと自宅の方で出迎えてくれた。現役時代に糖尿を患っていたが、「医師の言うことをよく聞けばちゃんと長生きできるんや」と言い、食事制限をしっかり守って仙人のような風貌になっていた。1時間ほどものすごい勢いで私と俳句の話をしては、「疲れた」とくたっとしてしまう。頭だけはものすごく元気、という印象であった。

亡くなったのは、2021年11月。新型コロナウイルス流行下、大往生の部類だと思う。面会に制限がかかるなか、亡くなる前日に諏訪さんを見舞った。最後に詠まれた句は、急変する直前の

十一月白い船来るどなたかしら

の一句。諏訪は「コロナで誰も来んなあ」と娘さんにこぼした、と聞いた。最後の句は、今となるとどこか死を予感させるが、明るさと静かさを湛えている。身体は健康でなくとも、詩精神だけはすべてを受け入れて健康そのもの。「白」はみどり女が句中によく登場させた色でもある。さすがにもう「写生」を一歩踏み越えた幻視のような句であるが、私はなぜか、昭和43年に諏訪さんが書いた文章を思い出した。

「健康で明るい俳句」というのは、むかしから私のモットーだった。ここ十数年いわゆる俳壇でもてはやされる俳句は、前衛と称し、….…あるいは社会性とし、……まあそのホンモノはホンモノでよいとして、その流行に乗らんとして、猫もシャクシも、敢て感情的にいうならば、ことさらにものごとを裏から見、暗い目で横から眺め、無理にキンキンと金属的な響を発するような俳句をつくろうとする傾向があった。日常、結構小市民的な生活を楽しんでいるくせに、俳句となると人生を深刻に悩んでいるような何とか、観念左翼的な句をひねり出して時流に迎合する。そのような軽薄な亜流が気に入らなくて、「健康で明るい旬」というモットーをたてたのは、逆にひとつの反骨精神なのだが、駒草同人作品鑑賞となると、その反骨精神がカラフリになってしまう。俳壇目あて、時流迎合の軽薄さが全くみあたらないのはいいとして、あまりに天下泰平、微温的な句が多すぎるのである。 特に光陰集は、新同人を多数迎えて清新の気あふれるかとみればさにあらず、むしろ駒草集よりもヌルマ湯ムードが強いのはなんとしたことか。

「健康で明るい俳句」はほんとうに健康で明るい心の張りと眼の輝きを必要とする。この系統で中途はんぱな居眠り的になってしまうのである。こうなったらいっそ、半年ぐらい、無理にでも前衛派、人生派、社会性派のマネゴトをしてみて、そうしてまた自らの本来の在り方に戻るのが早道ではないかと、激しいことも考えてみたが、これはまた自戒の意味ででもあるのであしからず。

(「同人作品欄鑑賞」「駒草」昭和43年9月号)

昭和43年だから、社会性俳句の盛んなりし頃。「健康で明るい句」は、今、私のモットーでもある。強い意志を持って、「健康で明るい心の張りと眼の輝き」を自覚的に保ち続けた俳人世古諏訪。私の「心の俳人」とでもいうべき人である。

蒼沖へ潮が抱き去る海月の屍   以下『蒼沖』

麥笛や夕燒の野は丘をなし

落葉踏みゆけばみづうみ見ゆる丘

青潮の果てなる隠岐の傾ける

寒三日月酒抱き帰る束ね紙   

海好きの子の瞳の高さラムネ噴く

子を抱いてゆく霧の灯を胸に点け

枯坂へ押す海色の乳母車

川できれる花菜母病むふるさとは  以下『花辛夷』

初鶏や明けあをあをと谿百戸

剃りあとや新樹ひかげるさびしさに

青空に重ぬる夜空花辛夷

夕日炎えきつて桜がさくらいろ

野火を見るわがたてがみの白交り

薫風の再会破顔より始まり

窓開けて墨磨る卯月曇りかな

風花や泪のあとの唇ゆるび     以下『雪の鴨』

寒鯉の深さより日の返りくる

鴨下りて影の整ふまでの波

雪はじきをりしがやがて雪の鴨

子離れのあとのバッハの夜長かな

たまさかの電車が時計蜜柑山

狐火を信じ野佛には会釈      以下『醉芙蓉』

母の日の鏡母似の眼を映す

甘く安く黙つてあめりかさくらんぼ

古雛かなしきことを多く負ふ     

我咳けば地軸はみ出すさくらかな

滴りのこの世に出でし光かな

初霜や白純信女猫の墓

牡丹雪時計一秒づつ動く

花篝くべ足せば空動きけり

狐火のしんがり小学生くらゐ

龍天へ登る朝日の大欅

浅川芳直


【執筆者プロフィール】
浅川芳直(あさかわ・よしなお)
平成四年生まれ。平成十年「駒草」入門。現在「駒草」同人、「むじな」発行人。
令和五年十二月、第一句集『夜景の奥』(東京四季出版)上梓。

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「むじな」発行人の第一句集!

この人の鋭さと柔らかさの兼ね合いは絶妙。清新と風格の共存と言い換えてもよい。──高橋睦郎

春ひとつ抜け落ちてゐるごとくなり
一瞬の面に短き夏終る
カフェオレの皺さつと混ぜ雪くるか
論文へ註ひとつ足す夏の暁
人白くほたるの森に溶けきれず

夜景の奥(購入方法) 東京四季出版

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2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年12月・2024年1月の火曜日☆土井探花のバックナンバー】
>>〔1〕忘年会みんなで逃がす青い鳥 塩見恵介
>>〔2〕古暦金本選手ありがたう 小川軽舟
>>〔3〕枇杷の花ふつうの未来だといいな 越智友亮
>>〔4〕呼吸器と同じコンセントに聖樹 菊池洋勝
>>〔5〕初夢のあとアボカドの種まんまる 神野紗希
>>〔6〕許したい許したい真っ青な毛糸 神野紗希

【2023年12月・2024年1月の木曜日☆浅川芳直のバックナンバー】
>>〔1〕霜柱五分その下の固き土 田尾紅葉子
>>〔2〕凍る夜の大姿見は灯を映す 一力五郎
>>〔3〕みじろがず白いマスクの中にいる 梶大輔
>>〔4〕一瞬の雪墜のひかり地にとどく 真島楓葉子
>>〔5〕いつよりも長く頭を下げ初詣 八木澤高原

【2023年11月・12月の水曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔9〕静臥ただ落葉降りつぐ音ばかり 成田千空
>>〔10〕綿虫や母あるかぎり死は難し 成田千空
>>〔11〕仰向けに冬川流れ無一文 成田千空
>>〔12〕主よ人は木の髄を切る寒い朝 成田千空
>>〔13〕白鳥の花の身又の日はありや 成田千空
>>〔14〕雀来て紅梅はまだこどもの木 成田千空

【2023年10・11月の火曜日☆西生ゆかりのバックナンバー】
>>〔1〕猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮
>>〔2〕赤福のたひらなへらもあたたかし 杉山久子
>>〔3〕五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
>>〔4〕湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり
>>〔5〕しやぼんだま死後は鏡の無き世界 佐々木啄実
>>〔6〕待春やうどんに絡む卵の黄 杉山久子
>>〔7〕もし呼んでよいなら桐の花を呼ぶ 高梨章
>>〔8〕或るときのたつた一つの干葡萄 阿部青鞋
>>〔9〕若き日の映画も見たりして二日 大牧広

【2023年10・11月の木曜日☆野名紅里のバックナンバー】
>>〔1〕黒岩さんと呼べば秋気のひとしきり 歌代美遥
>>〔2〕ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子
>>〔3〕秋・紅茶・鳥はきよとんと幸福に 上田信治
>>〔4〕秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ 小池康生
>>〔5〕縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月
>>〔6〕裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季
>>〔7〕水吸うて新聞あをし花八ツ手 森賀まり
>>〔8〕雪の速さで降りてゆくエレベーター 正木ゆう子
>>〔9〕死も佳さそう黒豆じっくり煮るも佳し 池田澄子

【2023年9・10月の水曜日☆伊藤幹哲のバックナンバー】
>>〔1〕暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄
>>〔2〕雨だれを聴きて信濃の濁り酒 德田千鶴子
>>〔3〕雨聴いて一つ灯に寄る今宵かな 村上鬼城
>>〔4〕旅いつも雲に抜かれて大花野  岩田奎
>>〔5〕背広よりニットに移す赤い羽根 野中亮介
>>〔6〕秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音
>>〔7〕横顔は子規に若くなしラフランス 広渡敬雄
>>〔8〕萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎

【2023年8・9月の火曜日☆吉田哲二のバックナンバー】
>>〔1〕中干しの稲に力を雲の峰   本宮哲郎
>>〔2〕裸子の尻の青あざまてまてまて 小島健
>>〔3〕起座し得て爽涼の風背を渡る 肥田埜勝美
>>〔4〕鵙の朝肋あはれにかき抱く  石田波郷
>>〔5〕たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
>>〔6〕葛咲くや嬬恋村の字いくつ  石田波郷
>>〔7〕秋風や眼中のもの皆俳句 高浜虚子
>>〔8〕なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
>>〔9〕百方に借あるごとし秋の暮 石塚友二

【2023年8月の木曜日☆宮本佳世乃のバックナンバー】
>>〔1〕妹は滝の扉を恣       小山玄紀
>>〔2〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔3〕葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
>>〔4〕さういへばもう秋か風吹きにけり 今井杏太郎
>>〔5〕夏が淋しいジャングルジムを揺らす 五十嵐秀彦
>>〔6〕蟷螂にコップ被せて閉じ込むる 藤田哲史
>>〔7〕菊食うて夜といふなめらかな川 飯田晴
>>〔8〕片足はみづうみに立ち秋の人 藤本夕衣
>>〔9〕逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子

【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男
>>〔8〕めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男

【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)
>>〔8〕数と俳句(四)

【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
>>〔13〕南浦和のダリヤを仮のあはれとす 摂津幸彦

【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩      中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


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