うつとりと人見る奈良の鹿子哉正岡子規【季語＝鹿子（夏）】

ハイクノミカタ

うつとりと人見る奈良の鹿子哉　正岡子規【季語＝鹿子（夏）】

2023/6/9
ハイクノミカタ, 塚本武州
1867年生まれ, 1902年没, 「ホトトギス」, うつとり, かな, と, の, 人, 哉, 夏の季語, 奈良, 正岡子規, 見る, 鹿の子, 鹿子

うつとりと人見る奈良の鹿子哉

正岡子規

　先日、ある句会にて鹿に関する兼題が出題された。この手の兼題が出ると、奈良の鹿を想起して作る句が多い。特に関西の句会であればその傾向が強い。鹿といえば奈良、奈良といえば鹿である。ところが、奈良から遠いところにいる人、奈良に行ったことがない人はなかなかこの連想がしづらい。よって、奈良の鹿では無い句を詠むが、その句に季感があるのかということになる。具体的にいうと、その句会でサバンナの鹿を詠んだ句があった。サバンナとは、アフリカ、南アメリカ、オーストラリアなどに広く分布し、雨季と乾季のある熱帯·亜熱帯地方の草原のことである。サバンナに鹿がいるのかどうかの議論もあるが、この雨季と乾季の地域の鹿に季感があるかということである。句会での議論は二分した。サバンナの鹿という発想が飛ぶことを良しとする人、サバンナの鹿には季感が無いという人に分かれた。主宰は、サバンナの鹿の句があってもいいとしながらも、結局は取らなかった。やはり、季感が無いからなのだろう。つまり、発想を飛ばしたとしても、季節を詠むことというメッセージである。

　ホトトギス新歳時記を見ると、「鹿」に関する季題は多い。例えば、「孕鹿（春４月）」「落し角（春４月）」「袋角（夏５月）」「鹿の子（夏６月）」「鹿（秋１０月）」「鹿の声（秋１０月）」「鹿の角切（秋１０月）」「鹿狩（冬１２月）」など、春夏秋冬に「鹿」に関する季題がある。これらを見ると、日本人は鹿を見ながら季節を感じていたのだと気付く。逆にいえば、鹿のニュースがあれば、季節を感じなければならない。今まで鹿に季感が無かった筆者は、鍛えなければならないと思った。

　さて、私事で恐縮だが、７月から転居することになり、その家の名前が「ディアコート」である。これもお告げなのか。よい週末を！

【執筆者プロフィール】
塚本武州（つかもと・ぶしゅう）
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、２０２１年４月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫（ユキ）の３人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】

＞＞〔22〕小燕のさヾめき誰も聞き流し　　中村汀女
＞＞〔21〕夏場所や新弟子ひとりハワイより　大島民郎
＞＞〔20〕白魚の命の透けて水動く　　　　稲畑汀子
＞＞〔19〕滝落したり落したり落したり　　清崎敏郎
＞＞〔18〕あれは伊予こちらは備後春の風　武田物外
＞＞〔17〕風光りすなはちもののみな光る　鷹羽狩行
＞＞〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ　篠田悌二郎
＞＞〔15〕山又山山桜又山桜　　　　　　阿波野青畝
＞＞〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ　　高浜虚子
＞＞〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ　市村不先
＞＞〔12〕梅咲きぬ温泉は爪の伸び易き　　梶井基次郎
＞＞〔11〕こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる　桑田青虎
＞＞〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼　山田弘子
＞＞〔9〕雛節句一_ト夜過ぎ早や二_タ夜過ぎ　　星野立子
＞＞〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も　　加藤楸邨
＞＞〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ　　　森田峠
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