キーパーの孤独へ流れ鰯雲 小島健【季語=鰯雲】


キーパーの孤独へ流れ鰯雲

小島健

 スポーツ少年団のサッカーママになってみて分かったこと。「キーパーの母は試合中胃が痛い」。一人抜かれ二人抜かれ、ああ決められた!うちの息子が止められなくてゴメンナサイ!である。強豪でもない小学校の校庭でコレなのだから、ワールドカップ日本代表の鈴木彩艶の母上を思うと血反吐を吐きそうだ。
 さて、「キーパーの孤独へ流れ鰯雲」。おそらく作者は通りすがりの草サッカーを俯瞰で見ている。
 …ボールを奪い合うフィールドの選手たちから離れたゴールキーパーは、なんだかポツンと取り残されたように見えるなあ。ユニフォームも違う色を着ているし…。
 間近で手に汗を握っての応援だったなら、この「孤独」は出てこない。キーパーの緊張感、声、表情が見えるからだ。でも、このジオラマを眺めるような無機質な視線こそが同時にキーパーという役割の本質を言い当てている。キーパーのポジションを選んだ彼らはフィールドの選手たちとは違うカリキュラムを受け、十一人制の試合の中で他の10人が知らない景色を知ることになる。司令塔となることもまた孤独。優しく全体を包む鰯雲がその孤独を癒す。

(西山ゆりこ)


【執筆者プロフィール】
西山ゆりこ(にしやま・ゆりこ)
1977年神奈川県生まれ。「駒草」同人。俳人協会会員。
第10回星野立子新人賞受賞。句集『ゴールデンウィーク』『錨(アンカー)』。



第10回星野立子新人賞を受賞した若手俳人による注目の第二句集!
◆自選10句
十代の首筋をもて海芋咲く
遠くより視線を戻す暑さかな
八月や果実のやうに嬰量る
バックネット裏の母達風光る
うれしげにさらはれてゆく村芝居
とんでくる拳のやうな寒さかな
白障子手紙の中のしづかなり
手を高くエスカレーターより御慶
寺山忌煙草のけむり無き街に
うつむくといふは鳥にも春惜しむ


20歳から俳句をはじめ、現在40歳。夢、希望、孤独、挫折をうたい、やがて母となりゆく作者。 俳人阿部みどり女の「写生に始まり、写生に終わる」の精神を受け継ぎながらも、その俳句は写生の域を超えてリアルな言葉で読者の胸に迫ってくる。女として、母として、自分を取り巻く世界をかくも生き生きとうたい上げ、感性を光らせる280句を収録。伝統に新風を吹き込む精鋭作家、待望の第一句集!


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