雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ 星野立子【季語=雛節句(春)】


雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ

星野立子

今日は3月3日金曜日、雛祭りである。筆者は三人兄弟なので雛祭りとは無縁で育ったが、俳句を作るようになり関心を持ち始めた。先週、兵庫県小野市の「ビッグひなまつり」を見に行ってきた。「ビッグ」と書かれていたので、大きい雛人形を期待したが、実際には幾段にも及ぶ雛壇と多数の雛人形が飾られており、その規模に圧倒された。小野市のホームページによると、「江戸時代後期から平成にかけての内裏びなや段飾り、御殿飾り、立びな、掛軸など78組650体のひな人形と飾り道具に、今回はさらに初出品となる小野藩主一柳家伝来の御殿雛を華やかに展示します」と記載されている。実際に見て驚いたことは、江戸時代から伝わる雛人形にも関わらず、その保存状態が良いことである。その理由を受付の方に聞いてみたところ、「雛人形が蔵の中の木箱に仕舞われて、適度な温湿度のもとで保管されていたため」と答えてくれた。また、これだけ多くの雛人形を並べるのは大変でしたねと労うと、「ボランティアさんのお陰です」と笑顔で話してくれた。帰り際にお土産としてお殿様とお姫様の折り紙を頂いた。家に持ち帰り棚に置いたところ、雛祭りがやってきて華やいだ感じになった。

  雛節句一夜過ぎ早や二タ夜過ぎ 星野立子

 星野立子(1903年11月15日~1984年3月3日)は東京出身で高浜虚子の次女である。1926年3月、虚子の勧めで初めて作句し、30年6月、初の女性主宰誌「玉藻」を創刊。32年4月、「ホトトギス」同人、59年4月、虚子亡き後、「朝日俳壇」の選者となる。75年勲四等宝冠章受章。立子は生涯をかけて女流俳人のリーダーとしての役割を果たした人物である。

 掲句は「年尾選ホトトギス雑詠選集」より抜粋し、「昭和26年」と記載がある。雛節句(桃の節句)は女性にとって楽しいイベントであるが、それが一晩、二晩と過ぎていき、時の早さを嘆いているようだ。楽しい時間はあっというまに過ぎ去っていくように、立子も雛節句が一夜二夜と早く行ってしまうことを寂しく感じたのであろう。

  雛飾りつゝふと命惜しきかな 星野立子

 この句も「年尾選ホトトギス雑詠選集」より、「昭和27年」と記載がある。この句は、「雛節句」より一年後に詠まれたものである。立子は雛人形を飾りつつ、心華やぐ行為のうちに、ふと命惜しの思いが心をよぎったのであろう。この句から32年後、1984年3月3日に直腸癌のため死去。鎌倉寿福寺には、虚子と共に立子の墓とこの句碑が建てられている。

  雛の日が忌日となりし佳人かな 稲岡達子

塚本武州


【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。

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>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも  京極杞陽

>>〔59〕一陣の温き風あり返り花       小松月尚
>>〔58〕くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな   皿井旭川
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>>〔56〕鵙の贄太古のごとく夕来ぬ      清原枴童
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>>〔54〕虹の空たちまち雪となりにけり   山本駄々子
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>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸   後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻      歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり       永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり    田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく     成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫        川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り    千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり    千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
>>〔42〕ール買ふ紙幣(さつ)をにぎりて人かぞへ  京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず  後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉

>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜     飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵        本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女

>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る    岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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