彼が下げ夕張メロン上京す
太田うさぎ
今日は夏至である。先週も書いたが、もう半分が過ぎてしまったという感覚である。明日からまた日が短くなっていくと思うと、関東地方は梅雨入り前であるが、秋へ近づいていく気持ちで何となく寂しい。関東地方は今年、梅雨があるのだろうか、既に真夏日や猛暑日の地域もあり、もう空梅雨のまま行くのではないかと危惧してしまう。
先週、茨城県のゴルフコンペに参加した際に、参加賞として地元特産のメロンを一玉頂いた。私は基本的に好き嫌いが無い達であり、今までも世界の珍味を食べ歩いてきたが、このメロンだけは、昔からどうも好きになれない。子供の頃はメロンが苦いので好きになれず、大人になったらこの苦味が、さながらビールの味のように美味いと感じる頃が来ると思っていた。しかし、結婚式披露宴のメロン、法事のメロンなど何度か食してみたが、やはり美味いとは思えず、どちらかといえば苦味ではなく、苦手であることに気づいた。メロンの味云々ではなく、メロンの姿形、匂い、食感、虫になったような感覚など、総体的にその存在自体が苦手なのだとある時気づいた。それ以降ずっと近寄らなかったが、先週久しぶりにメロンに遭遇してしまった。頂いた時には、皆のいる前でお断りもできず、口角を上げ笑顔で受け取ったが、気分は盛り下がっていた。家に持ち帰り嫁に渡すと、満面の笑みで、口角も気分も最高に盛り上がっていた。
彼が下げ夕張メロン上京す
太田うさぎ
掲句は、北海道出身の彼が土産に夕張メロンを引っ提げて上京し、彼女のお父さんへ挨拶へ行くという情景だろうか。上五の「下げ」と下五の「上京す」が縦方向の坂道を連想させ、夕張メロンがゴロゴロと転がる音が聞こえる。北海道と東京の位置関係も南北の縦方向であり、その間を夕張メロンが行き交う。彼がの「が」、下げの「げ」、夕張の「ば」、上京の「じ」、作者名うさぎの「ぎ」の濁音がバランスよく配置され、ゴロゴロ感がありこ気味好い。
さて、家の冷蔵庫に眠るメロンは、嫁の胃袋におさまるのをじっと待っている。こっそり取り出し、スイカ割りならぬメロン割りをしてみたらどうなるだろうか。ちょうどここにゴルフクラブもあることだし。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
【塚本武州のバックナンバー】
>>〔72〕頭を垂れて汗の男ら堂に満つ 高山れおな
>>〔71〕子燕のこぼれむばかりこぼれざる 小澤實
>>〔70〕橋立も歩けば長し松落葉 高林蘇城
>>〔69〕夕餉まで少し間のあり額の花 片山由美子
>>〔68〕仕切り繰返す間も掃き五月場所 鷹羽狩行
>>〔67〕熟れ麦はほろびのひかり夕日また 石原舟月
>>〔66〕さうらしく見えてだんだん鴉の巣 大畑善昭
>>〔65〕浜風のほどよき強さ白子干す 橋川かず子
>>〔64〕うららかや空より青き流れあり 阿部みどり女
>>〔63〕蜃気楼博士ばかりが現れし 阪西敦子
>>〔62〕山桜見て居ればつく渡舟かな 波多野晋平
>>〔61〕雁かへる方や白鷺城かたむく 萩原麦草
>>〔60〕流氷や宗谷の門波荒れやまず 山口誓子
>>〔59〕杉の花はるばる飛べり杉のため 山田みづえ
>>〔58〕エッフェル塔見ゆる小部屋に雛飾り 柳田静爾楼
>>〔57〕三月の旅の支度にパスポート 千原草之
>>〔56〕春一番競馬新聞空を行く 水原春郎
>>〔55〕いつ渡そバレンタインのチョコレート 田畑美穂女
>>〔54〕針供養といふことをしてそと遊ぶ 後藤夜半
>>〔53〕屋根の上に明るき空やパリの春 コンラツド・メイリ
>>〔52〕雪が来るうさぎの耳とうさぎの目 青柳志解樹
>>〔51〕真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う 福田若之
>>〔50〕什器全て鈍器に見えて冬籠 今井聖
>>〔49〕初旅の富士より伊吹たのもしき 西村和子
>>〔48〕ポテサラの美味い雀荘大晦日 北大路翼
>>〔47〕絶叫マシーンに未婚既婚の別なく師走 村越敦
>>〔46〕永遠とポップコーンと冬銀河 神野紗希
>>〔45〕酔うて泣きデザートを食ひ年忘 岸本尚毅
>>〔44〕いつせいに柱の燃ゆる都かな 三橋敏雄
>>〔43〕鍋物に火のまはり来し時雨かな 鈴木真砂女
>>〔42〕あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男
>>〔41〕向日葵をつよく彩る色は黒 京極杞陽
>>〔40〕つれづれのわれに蟇這ふ小庭かな 杉田久女
>>〔39〕べつたら市糀のつきし釣貰ふ 小林勇二
>>〔38〕新蕎麦のそば湯を棒のごとく注ぎ 鷹羽狩行
>>〔37〕コスモスや泣きたくなつたので笑ふ 吉田林檎
>>〔36〕月かげにみな美しき庭のもの 稲畑汀子
>>〔35〕ラグビーのゴールは青き空にあり 長谷川櫂
>>〔34〕コスモスを愛づゆとりとてなきゴルフ 大橋 晄
>>〔33〕秋めくや焼鳥を食ふひとの恋 石田波郷
>>〔32〕めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる 秋元不死男
>>〔31〕よし切りや水車はゆるく廻りをり 高浜虚子
>>〔30〕おもかげや姨ひとりなく月の友 松尾芭蕉
>>〔29〕生れたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女
>>〔28〕鬼灯市雷門で落合うて 田中松陽子
>>〔27〕買はでもの朝顔市も欠かされず 篠塚しげる
>>〔26〕少し派手いやこのくらゐ初浴衣 草間時彦
>>〔25〕赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな 稲畑汀子
>>〔24〕紫陽花のパリーに咲けば巴里の色 星野椿
>>〔23〕うつとりと人見る奈良の鹿子哉 正岡子規
>>〔22〕小燕のさヾめき誰も聞き流し 中村汀女
>>〔21〕夏場所や新弟子ひとりハワイより 大島民郎
>>〔20〕白魚の命の透けて水動く 稲畑汀子
>>〔19〕滝落したり落したり落したり 清崎敏郎
>>〔18〕あれは伊予こちらは備後春の風 武田物外
>>〔17〕風光りすなはちもののみな光る 鷹羽狩行
>>〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎
>>〔15〕山又山山桜又山桜 阿波野青畝
>>〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ 高浜虚子
>>〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ 市村不先
>>〔12〕梅咲きぬ温泉は爪の伸び易き 梶井基次郎
>>〔11〕こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる 桑田青虎
>>〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼 山田弘子
>>〔9〕雛節句一ト夜過ぎ早や二タ夜過ぎ 星野立子
>>〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も 加藤楸邨
>>〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ 森田峠
>>〔6〕謝肉祭の仮面の奥にひすいの眼 石原八束
>>〔5〕バー温し年豆妻が撒きをらむ 河野閑子
>>〔4〕初場所の力士顚倒し顚倒し 三橋敏雄
>>〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌 京極杞陽
>>〔2〕福笹につけてもらひし何やかや 高濱年尾
>>〔1〕一月や去年の日記なほ机辺 高濱虚子
【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】
>>〔118〕【最終回】なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬 稲畑汀子
>>〔117〕クリスマスイヴの始る厨房よ 千原草之
>>〔116〕傾けば傾くまゝに進む橇 岡田耿陽
>>〔115〕風邪ごもりかくし置きたる写真見る 安田蚊杖
>>〔114〕舟やれば鴨の羽音の縦横に 川田十雨
>>〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり 加賀谷凡秋
>>〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる 三木朱城
>>〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり 大岡龍男
>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ 三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨 楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき 丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば 池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず 鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな 山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭 柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる 竹下しづの女
>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋 麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて 柏崎夢香
>>〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く 原石鼎
>>〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり 江川三昧
>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも 石島雉子郎
>>〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり 奈良鹿郎
>>〔90〕はしりすぎとまりすぎたる蜥蜴かな 京極杞陽
>>〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る 日原方舟
>>〔88〕さくらんぼ洗ひにゆきし灯がともり 千原草之
>>〔87〕おやすみ
>>〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな 久保より江
>>〔85〕日蝕の鴉落ちこむ新樹かな 石田雨圃子
>>〔84〕白牡丹四五日そして雨どつと 高田風人子
>>〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり 久保ゐの吉
>>〔82〕かゝる世もありと暮しぬ春炬燵 松尾いはほ
>>〔81〕纐纈の大座布団や春の宵 真下喜太郎
>>〔80〕先生はいつもはるかや虚子忌来る 深見けん二
>>〔79〕夜着いて花の噂やさくら餅 關 圭草
>>〔78〕花の幹に押しつけて居る喧嘩かな 田村木國
>>〔77〕お障子の人見硝子や涅槃寺 河野静雲
>>〔76〕東京に居るとの噂冴え返る 佐藤漾人
>>〔75〕落椿とはとつぜんに華やげる 稲畑汀子
>>〔74〕見てゐたる春のともしびゆらぎけり 池内たけし
>>〔73〕諸事情により、おやすみ
>>〔72〕春雪の一日が長し夜に逢ふ 山田弘子
>>〔71〕早春や松のぼりゆくよその猫 藤田春梢女
>>〔70〕よき椅子にもたれて話す冬籠 池内たけし
>>〔69〕犬去れば次の犬来る鳥総松 大橋越央子
>>〔68〕左義長のまた一ところ始まりぬ 三木
>>〔67〕絵杉戸を転び止まりの手鞠かな 山崎楽堂
>>〔66〕年を以て巨人としたり歩み去る 高浜虚子
>>〔65〕クリスマス近づく部屋や日の溢れ 深見けん二
>>〔64〕突として西洋にゆく暖炉かな 片岡奈王
>>〔63〕茎石に煤をもれ来る霰かな 山本村家
>>〔62〕山茶花の日々の落花を霜に掃く 瀧本水鳴
>>〔61〕替へてゐる畳の上の冬木影 浅野白山
>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも 京極杞陽
>>〔59〕一陣の温き風あり返り花 小松月尚
>>〔58〕くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな 皿井旭川
>>〔57〕おやすみ
>>〔56〕鵙の贄太古のごとく夕来ぬ 清原枴童
>>〔55〕車椅子はもとより淋し十三夜 成瀬正俊
>>〔54〕虹の空たちまち雪となりにけり 山本駄々子
>>〔53〕潮の香や野分のあとの浜畠 齋藤俳小星
>>〔52〕子規逝くや十七日の月明に 高浜虚子
>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸 後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻 歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり 永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり 田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく 成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫 川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り 千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり 千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて 千原草之
>>〔42〕ビール買ふ紙幣をにぎりて人かぞへ 京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず 後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ 久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり 赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき 後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜 飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵 岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵 本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく 上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し 上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ 越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り 星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ 伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ 今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間 藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中 後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜 深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー 下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く 千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ 森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く 今井つる女
>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話 田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより 深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ 京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造 西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方 福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他 中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら 野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな 山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る 岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て 小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に 山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜 中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す 柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨 成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー 千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月 松藤夏山
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】