ハイクノミカタ

あたたかき十一月もすみにけり 中村草田男【季語=冬の空(冬)】


あたたかき十一月もすみにけり

中村草田男

11月も今日で終わり。

歳時記の中で見ていただけではどこか漠然としていたものが、実際にその物や季節を体験するとすとんと腑に落ちる句がある。

私にとってこの句はその中のひとつ。

小春日のつづく11月は冬といっても暖かな日和が多い。しかも年の終わりに近づいているにもかかわらず、時間の流れが穏やかだ。

12月に入ると一気に年末の慌しさとなる。

今年は感染症の影響で、常とは違う時間が流れてはいたが、それでもやはり、穏やかな日和は変わることなくそこにあって、季節はたしかに動いていることに気づかせてくれる。

あたたかき十一月もすみにけり

11月という穏やかに過ぎた日々への感慨。

「十一月の」ではなく「十一月も」には、11箇月という歳月の積み重ねへの感慨も同時に含まれている。

この時季に口ずさむと、何とも味わい深い一句。

日下野由季


🍀 🍀 🍀 季語「十一月」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 好きな樹の下を通ひて五月果つ 岡崎るり子【季語=五月果つ(夏)】…
  2. あひふれしさみだれ傘の重かりし 中村汀女【季語=五月雨(夏)】
  3. かんぱちも乗せて離島の連絡船 西池みどり【季語=かんぱち(夏)】…
  4. Tシャツの干し方愛の終わらせ方 神野紗希【季語=Tシャツ(夏)】…
  5. 春星や言葉の棘はぬけがたし 野見山朱鳥【季語=春星(春)】
  6. 赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな 稲畑汀子【季語=牡丹(夏)】
  7. 一瞬の雪墜のひかり地にとどく 真島楓葉子【季語=雪墜(冬)】
  8. デモすすむ恋人たちは落葉に佇ち 宮坂静生【季語=落葉(冬)】

おすすめ記事

  1. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第32回】城ヶ島と松本たかし
  2. 樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ 日野草城【季語=梅雨入(夏)】
  3. 【冬の季語】水鳥
  4. 旅いつも雲に抜かれて大花野 岩田奎【季語=花野(秋)】
  5. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第3回】2010年神戸新聞杯
  6. 跳ぶ時の内股しろき蟇 能村登四郎【季語=蟇(夏)】
  7. 飯蛸に昼の花火がぽんぽんと 大野朱香【季語=飯蛸(春)】
  8. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年7月分】
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第56回】池田のりを
  10. 膝枕ちと汗ばみし残暑かな 桂米朝【季語=残暑(秋)】

Pickup記事

  1. 赤んぼころがり昼寝の漁婦に試射砲音 古沢太穂【季語=昼寝(夏)】
  2. 花散るや金輪際のそこひまで 池田瑠那【季語=花散る(春)】
  3. ひまわりと俺たちなんだか美男子なり 谷佳紀【季語=ひまわり(夏)】
  4. つちふるや自動音声あかるくて 神楽坂リンダ【季語=霾(春)】
  5. 【秋の季語】秋の蝶
  6. 山椒の実噛み愛憎の身の細り 清水径子【季語=山椒の実(秋)】
  7. 大河内伝次郎西瓜をまつぷたつ 八木忠栄【季語=西瓜(秋)】
  8. 「パリ子育て俳句さんぽ」【8月20日配信分】
  9. 蜩や久しぶりなる井の頭      柏崎夢香【季語=蜩(秋)】
  10. 【夏の季語】万緑
PAGE TOP