東風を負ひ東風にむかひて相離る三宅清三郎【季語＝東風（春）】

ハイクノミカタ

東風を負ひ東風にむかひて相離る三宅清三郎【季語＝東風（春）】

2024/4/9
ハイクノミカタ, 阪西敦子
1898年生まれ, 「ホトトギス」, て, に, を, 三宅清三郎, 向かう, 東風, 相離る, 負う, 阪西敦子

東風を負ひ東風にむかひて相離る

三宅清三郎みやけ・せいざぶろう

昨日4月8日は仏生会（釈迦の誕生日）であり、また高浜虚子忌日でもある。ちょっと事情があって、毎年その日を何となく心にとめて過ごすようになって、四半世紀くらいが経つのだけれど、4月8日というのは、年ごとに全く一緒のことがない。今年は、何年ぶりに桜が残っていて、しかもその満開に近いころにあって、かろうじて雨は降らず、寒くはなくて、風のそこそこある日だった。

東風を負ひ東風にむかひて相離る

三宅清三郎は明治31年生まれ、岡山の出身。東京帝大経済学部を出て安田銀行に勤め、九州に住んだり。外遊したりしたとのこと。岡山一中（現・岡山朝日高校）時代より、洋画・短歌・俳句に親しんだ。

春風は、風向きや強弱が変わりやすい。「春風や闘志いだきて丘に立つ」（高浜虚子）が人口に膾炙したのは、春風の解釈の自由さによるものじゃないかと思う。吹き荒れる風を思う人、駘蕩としたところを思う人、闘志を抱いて丘に立つには、どちらでもいい。

東風は春風の中でも解釈が割と限定的な風。冬が抜けたころの早春のやや荒い風。二人以上の人がいて、わわわわーっと押されて（負ひ）、よよよよーっと風上へ進む（むかひて）、そして、その強さに負けて、風によって分けられてしまう（相離る）。だから何って話だけれど、荒れる春風の逆らいがたさのようなものが、体感されはしないか。そして人のきずなの弱さ、までは特にわからないけれど。

ちなみに巻末のプロフィールによれば中野区氷川町に住んだそうだ、氷川橋のあたりだろうか。わたくしごと、この週末に大量の郵送物を送ってもらったのだけれど、中野区は届いたようだけれど、杉並区は届かず、堺市と横浜市には届いて、目黒区と中央区にも届かなかったようだ。なかなか日本の郵便も春風に似て。

『ホトトギス同人句集』（1913年）

（阪西敦子）

【執筆者プロフィール】
阪西敦子（さかにし・あつこ）
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。2024年4月、句集『金魚』を上梓。

俳壇のサグラダ・ファミリア！
ついに刊行！！

◆第一句集
ラガーらの目に一瞬の空戻る
稲畑汀子の言葉として「見るから観るへ」というのがある。これはただ眺めるだけではなく、その奥にある季題の本質を探ることが大切であるという意味だが、まさにそれを実践した素晴らしい作品群である。
(跋より・稲畑廣太郎)