季語・歳時記

【春の季語】東風

【春の季語=三春(2〜4月)】東風

冬型の気圧配置が弱まると、日本列島には太平洋側からやわらかな「東風」が吹き始める。麻雀においても、「東場」の「東風」のオヤからはじまるように、春先の「東風」は、万物が芽吹く季節の「はじまり」を告げる風であるという趣がある。

東風吹かばにほひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ
菅原道真

太宰府にいれば、「東風」は京都のほうから吹いてくる。この和歌は、筑紫にながされる時、梅を愛した道真は、京都の邸宅に咲く梅の花に別れを惜しんで詠んだといわれているもの。「飛梅」は京都から飛来したと伝えられ、いまも太宰府天満宮の観光名所となっている。

そのようなわけで「国風」な読み方を漢字に当てているため、「東風」の読み方は「こち」。「ひがしかぜ」とはけっして読まない。

「鰆東風」「梅東風」「桜東風」など、季節の風物を組み合わせた季語も多々。

ただし、「初東風」は新年の季語、「土用東風」は夏の季語である。


【東風(上五)】
東風吹くや山一ぱいの雲の影 夏目漱石
東風吹くや耳現はるゝうなゐ髪 杉田久女
強東風のわが乗る船を見て来たり 佐藤念腹
東風の波がぶりがぶりと杭を越え 星野立子
東風を負ひ東風にむかひて相離る 三宅清三郎
東風ほのかメランコリックな犬とゐて 小倉涌史
強東風や家壊さねば家建たず 松尾隆信
東風吹かば吾をきちんと口説きみよ 如月真菜

【東風(中七)】
亀の甲並べて東風に吹かれけり 小林一茶
石段を東風ごうごうと本門寺 川端茅舎
ふるさとや東風寒き日の鰯売り 鈴木真砂女

【東風(下五)】


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