季語・歳時記

【秋の季語】野菊

【秋の季語=仲秋(9月)】野菊

【解説】

野に咲く菊に似た花、特に「ヨメナ」のことを指す。

菊花展に見られるように、菊は基本的に手をかけて育てるもの。そもそもキクに野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来した。なので、キクの野生種というものはない。

しかし日本にはキクに似た花があちらこちらに自生している。

とりわけヨメナは、日本では万葉の昔から親しまれており、若芽を摘んで食用にすることができることもあり、親しみのある花。

ということで、厳密にいうと、野菊はじつは菊ではない。

ヨメナ属 Kalimerisのほかには、茎が長く伸びるシオン属 Asterも「野菊」の一種。とくにノコンギク A. ageratoides subsp. ovatusなどが有名か。下の写真はヨメナの花。

管理人が知っている「野菊」の句でのベストのひとつは、

七草に入りたきさまの野菊かな

でしょうか。〈頂上や殊に野菊の吹かれ居り〉が有名な原石鼎、17歳のときの句です。岩淵喜代子『評伝 頂上の石鼎』より。


【野菊(上五)】
野菊やゝ飽きて真紅の花恋へり 杉田久女
野菊にも雨ふりがちの但馬住 京極杞陽
初野菊仮想の女人みなあはれ 中村草田男
野菊道数個の我の別れ行く 永田耕衣
荒野菊身の穴穴に挿して行く 永田耕衣
野菊まで行くに四五人斃れけり 河原枇杷男
野菊にも月日は流れゐたりけり 後藤比奈夫
野菊摘む古へ人のごとくにも 山田みづえ
野菊とは雨にも負けず何もせず 和田悟朗
野菊濃しここにも翁の旅の跡 稲畑汀子
爐に野菊溢れしめ堀辰雄邸 宮坂静生
野菊あり静かにからだ入れかへる 攝津幸彦

【野菊(中七)】
きり崖や日陰の野菊濡れて咲く 正岡子規
野路ゆけば野菊を摘んで相かざす(誓子新婚) 高濱虚子
野仏にささぐべき野菊さき初めたり 荻原井泉水
藪添もゆく野菊咲いてゐるこのみちをゆく 中川一碧樓
頂上や殊に野菊の吹かれ居り 原石鼎
このみちの野菊ばかりの夕まぐれ 百合山羽公
受難曲あれち野菊の夕焼けて 野見山朱鳥
風失せて野菊の朝の来てをりし 稲畑汀子
ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子
敵の数だけの野菊をもち帰る 宇多喜代子
くくられし野菊の色の盛りかな 西村弘子
余生かな壜の野菊の水が減る 渡辺悦古
真向ひの野菊の枯れて一枚に 宮本佳世乃

【野菊(下五)】
雨粒のときどき太き野菊かな 中村汀女
いつ来ても能登はなつかし野菊咲く 大谷句佛
この道の心覚えや野菊咲く 池内たけし
曇り来し昆布干場の野菊かな 橋本多佳子
硫黄島玉砕の報野菊噛む 渡邊白泉
むらさきは憶ひ出す色壷の野菊 後藤比奈夫
顔ひとつ重し重しと野菊摘む 渋川京子
振って、いま。野菊の。墓。へ。葬らん。 佐山哲郎
傷つきし猫は君かも野菊の上 北大路翼


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