【秋の季語】林檎

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【秋の季語=晩秋(10月)】林檎

【解説】林檎(セイヨウリンゴ)は、日本では最もポピュラーな秋の果物。明治時代にヨーロッパから入ってきたものなのに、あたかも昔から食べられているような錯覚さえあるのは、「ふじ」なんていう純和風の名前の品種があるからでしょうか。暑さには弱いので、長野や東北、北海道などで多く作られています。

もともと日本にあった(もとをたどれば大昔に中国大陸から輸入された)在来種の林檎は果実が小さく、それほど生産量も多くありませんでした。江戸時代になっても、梨や柿と比べて、人気もそれほどなかったようです。それらをもともと「林檎」と呼んでいたので、ヨーロッパものの林檎は「苹果(ヘイカ)」と呼んで区別されることになったのが、1876年のこと。

俳諧の世界では「五六月に熟する者也」(滑稽雑談)ということで、元禄以降は「6月の季語」でしたが、今では「秋の季語」として認知されて久しいですね。

1931年に全国初のリンゴに関する専門試験場としてつくられた「青森県苹果試験場」が、「青森県りんご試験場」へと名前を変えたのが、1950年のことで、以降「苹果」の漢字表記は、ほとんど使われなくなったそうです。

そういえば、並木路子(1921-2001)の「リンゴの唄」がヒットしたのは、1945年のこと。「可憐な少女」の思いを赤いリンゴに託して歌う歌詞が、戦後の重苦しい雰囲気を吹き飛ばしてくれました。当時のインテリの受けは悪かったようですが、GHQ主導でつくられた「のど自慢」で全国に広まってったのが、やはり大きいのでしょうね。カラオケで火がついた、みたいな。

さて話を戻すと、「ワリンゴ」、「ジリンゴ」と呼ばれる在来種のリンゴは、長野県飯綱町の「高坂りんご」、滋賀県彦根市の「彦根りんご」、青森県大鰐町の「おおわに和りんご」など、全国11か所に現存しているのですが、いかんせん生産量が少なく、なかなかお目にかかることはありません。俳句で「林檎」といえば、まずは「セイヨウリンゴ」のことを指します。

林檎は、文化史的にみても、いろいろな場面で象徴的に使われてきました。まずは『創世記』(2章9節以降)に出てくる「善と悪がわかってしまう木」(日本語では単に「知恵の樹」と呼ばれることが多い)、これがリンゴだという俗説は有名ですね。イチジクだったという説もありますが、リンゴ説を広めたのは、ジョン・ミルトンの「失楽園」(1667年)でしょう。何よりもリンゴは、絵的にわかりやすい。〈林檎落つアダムの空の深さより 加藤耕子〉や〈小粒なるイヴの林檎を丸齧り 太田土男〉などがあります。

最近では、世界のコンピュータ技術を牽引する「アップル」社。最近では、アマゾン、フェイスブック、グーグルと並んで「GAFA」と呼ばれるようになってしまいましたが、これはもともとスティーブ・ジョブズ(1955-2011)がジョン・レノン(1940-1980)を敬愛していて、ビートルズのレコード会社の名前が「Apple Record」だったことにも由来しているのだとか。リンゴ・スターとは関係ありません。

ちなみにジョブズが亡くなったのは、林檎の季節、10月5日でもありました。

日本のバブル崩壊後、90年代後半から2000年代にかけてポップスのアイコンだった椎名林檎が、この赤い果実を芸名につけたのは、子供の頃に恥ずかしがり屋で人前に出るとすぐに顔が赤くなることから「りんご、りんご」とクラスメイトに呼ばれたことに由来するのだとか。今のご時世では、赤面をからかうことはアウトなので、くれぐれもご注意ください。

まあ、こんなことを知っていてもいい俳句は作れませんけれど、林檎のポテンシャルは、他の果物と比べてもおおきいですね。今日は、ひさしぶりに郷ひろみと樹木希林の「林檎殺人事件」でも聴きながら、寝ることにします。

【関連季語】林檎の花(春)、青林檎(夏)、秋果、冬林檎(冬)など。


【林檎(上五)】

林檎の赤い夕暮 鴎はとんでいるか(神戸) 吉岡禅寺洞
樹のリンゴ地上の妻の籠に満つ  津田清子
林檎むく五重の塔に刃を向けて 野見山朱鳥
りんご掌にこの情念を如何せむ 桂信子
りんご食みいちづなる身をいとほしむ 桂信子
捨て林檎押しのけざまに北へ河 成田千空
林檎出づ働くことの楽しくて 菖蒲あや
掌に林檎いま死ねば吾も光るらむ 八田木枯
林檎剥くとき思ひ出す一詩人 稲畑汀子
腐る林檎腐らぬ林檎アトリエに 藤崎幸恵
林檎もぎ空にさざなみ立たせけり 村上喜代子
林檎一つ投げ合ひ明日別るるか  能村研三
林檎投ぐ男の中の少年へ 正木ゆう子
林檎剥くてのひらは泣き顔に似て ふけとしこ
傷林檎君を抱けない夜は死にたし 北大路翼
林檎割る何に醒めたる色ならむ 髙柳克弘
林檎の実すれすれを行くバスに乗り 西村麒麟

【林檎(中七)】

胃痛癒えて林檎の来る嬉しさよ 正岡子規
食みかけの林檎に歯当て人を見る 高濱虚子
食ひかけの林檎をハンドバッグに入れ 高濱虚子
ほほゑみや林檎の歯あと較ぶなる 池内友次郎
てのひらに載りし林檎の値を言はる 日野草城
死顔や林檎硬くてうまくて泣く 西東三鬼
老いよとや赤き林檎を手に享くる 橋本多佳子
星空へ店より林檎あふれをり 橋本多佳子
世界病むを語りつゝ林檎裸となる 中村草田男
セザンヌの林檎小さき巴里に来て 森尻禮子
刃を入るる隙なく林檎紅潮す  野澤節子
クッキーと林檎が好きでデザイナー 千原草之
制服に林檎を磨き飽かぬかな  林桂
あめつちや林檎の芯に蜜充たし 武田伸一
小粒なるイヴの林檎を丸齧り 太田土男
球体の海なり林檎ころげゆく 対馬康子
耳立てて林檎の兎沈めおり 対馬康子
星屑のほどの林檎の中に泊つ 佐怒賀正美 
熱とれて林檎の歯ごたえ言うてもみる 松本恭子
五大陸模様の林檎ならば買ふ 櫂未知子
黄昏は早し林檎の切り口の 櫂未知子
青春の音立て林檎丸かじり 涌羅由美
丑三ツ時ノ国光林檎ノ落下ヲ赦ス 夏石番矢
口づけも林檎も奪うのみである 津田このみ
矢の飛んできさうな林檎買ひにけり 望月周
推理小説りんごの芯に行き当たる 小枝恵美子
家族をらねど家ぬちの林檎は残らず食ふ 関悦史
カーテンに拭う林檎よ無音の部屋 近恵
人生は林檎並べるほどに暇 松本てふこ
食ひながらゆけと林檎を投げらるる 井出野浩貴

【林檎(下五)】

道の辺に一樹百顆の林檎立つ 水原秋櫻子
空は太初の青さ妻より林檎うく  中村草田男
もろ手あることはしあはせ林檎むく 國弘賢治
エンピツのいのちけづりて林檎揺く 國弘賢治
左手と右手むつまじ林檎むく 國弘賢治
原爆の街停電の林檎つかむ 金子兜太
牛の仔が啼いて林檎の木に林檎 細川加賀
母が割るかすかながらも林檎の音 飯田龍太
岩木嶺やどこに立ちても林檎の香  加藤憲曠
昂りをしづかに収め林檎むく 山田弘子
少年に少女の弔辞紅りんご 落合水尾
入日より取り出すやうに林檎捥ぐ 伊藤庄平

【林檎箱】
銀色の釘はさみ抜く林檎箱 波多野爽波
林檎箱とどきて三日海も平ら 友岡子郷

【林檎園】
子の顔もりんごの仲間りんご園 成田千空
父と呼びたき番人が棲む林檎園  寺山修司

【林檎狩】
雲白く国かがやきて林檎狩る 対馬康子

【その他】
手で磨く林檎や神も妻も留守 原子公平


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