どれも椋鳥ごきげんよう文化祭小川楓子【季語＝椋鳥（秋）】

ハイクノミカタ

どれも椋鳥ごきげんよう文化祭　小川楓子【季語＝椋鳥（秋）】

2022/10/20
ハイクノミカタ, 橋本直
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どれも椋鳥ごきげんよう文化祭

小川楓子
（「ことり」港の人）

一読した印象は、なんだか楽しいっぽい句。椋鳥は秋の季語ということになっているのだけれど、年がら年中いるといえばいる割合ありふれた鳥なので、単体でみると季感は薄い。とはいえ、秋祭りの夜店が並ぶ通りの頭上の電線にヒッチコックの映画ばりに群がる椋鳥をみて驚いた経験はあって、歳時記には群れる椋鳥の姿を詠んだ句が複数あるので、いわば秋の群れている姿を詠むのが、今のところの椋鳥の「本意」ということもできるだろう。掲句は、椋鳥が複数いることを「どれも」で示しているから、その「本意」には一応叶っており、「ごきげんよう文化祭」とあることから、文化祭の会場に椋鳥が群れていて、その群れた椋鳥へ挨拶をしていると読めば、ちょっとしたメルヘンの世界のようだ。一方、それは「椋鳥」で切って読んでいるからであり、この「ごきげんよう」の挨拶を、こちらから椋鳥、または椋鳥同士の会話などとみれば、なにやら文化祭の学生・生徒の首から上がみな椋鳥の顔であるような世界を描いているようにも読めてくる。その辺りの虚実の距離感は、読者に委ねられているのだろう。掲句を収める句集名「ことり」であるだけのことはあって、様々な鳥たちの句が収められていて、椋鳥は他に「椋鳥の脚ぺしやんこのカレーパン」。その他、「くちのなかほんのり塩気かも雷鳥」、「せきれいも口呼吸かしらチキンサンド」、「三つ折りのおさいふ三光鳥もゐるよ」など。それぞれにどこか軽くて不穏な空気をまとう印象があって、おそらくこれまでの詠まれ方とは一味も二味も違うものではないかと思う。

（橋本直）

【執筆者プロフィール】
橋本直（はしもと・すなお）
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」（邑久光明園）俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』（2011年）、『鬼』（2016年）いずれも私家版。第一句集『符籙』（左右社、2020年）。共著『諸注評釈新芭蕉俳句大成』（明治書院、2014年）、『新興俳句アンソロジー何が新しかったのか』（ふらんす堂、2018年）他。

【小川楓子さんの第一句集『ことり』はこちら】