冬真昼わが影不意に生れたり 桂信子【季語=冬の昼(春)】

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冬真昼わが影不意に生れたり

桂信子
(「草苑」2004年12月号)


桂信子は、2004年12月16日逝去。主宰誌の「草苑」同年12月号に掲載された9句が最後の発表句ということになるのだろうか。掲句は、その「草苑」掲載句の最後の一句である(引用は宇多喜代子編『桂信子全句集』2007年刊ふらんす堂による)。全句集末の「年譜」には「俳句研究」翌年1月号に10句発表とあるので、時系列的にはそちらが後になるが、全句集にはその掲載が見あたらない。確認しないとなんとも言えないのだが、「草苑」既発表句と重複したものだったのかもしれない。ついでにいうなら「草苑」への掲載は通例10句だが、9句しかないのも、最後の掲載に当たって事情があったものと推察される。

さて、掲句。冬曇の空の下、真昼ながら寒々しい中に立っていた時、不意に雲が切れて陽光が降ってきた、という景だろうか。それまで茫洋として姿のなかった己の影が不意にくっきりと現れる。曇り空の下、あるかなきかの己の影は、自身の生命力の衰えの象徴とみることもできるだろう。それを見ていた私を裏切るように不意に生じた影というもの、それは我が影ながら、別の生き物の立ち現れのようであり、その影をもつ己もまた陽の熱を帯び、それ以前の己とは違う存在となり、生命力の増幅感とでもいうようなものを得た感じがしていたのではないか。映像としてはたわいもない一瞬の出来事だけれども、下五「生れたり」からは、ただ影が出来たというのではない、一瞬の生と死の感覚の立ち現れを読み取ることができるように思われる。

ところで、晩年の桂信子の三句集は、第八句集『樹影』、第九句集『花影』、第十句集『草影』と、なぜかタイトルにすべて「影」を纏っている。いろんないきさつがあっての名付けのようだが、人生の最後に発表した句にも「影」が残されてあるとなると、この言葉になにかしら深いこだわりがあったものかという疑問がわいてくる。一度、そういう視点で読み直してみるべきか。

橋本直


【橋本直のバックナンバー】

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【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。


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