ハイクノミカタ

おにはにはにはにはとりがゐるはるは 大畑等


おにはにはにはにはとりがゐるはるは

大畑等
(初出不詳)


先週の話題つながりなのだけれど、個人的に春と鶏と言えばまず浮かぶのがこの句。もともと言葉遊びにあるものを借りて端的に巫山戯てみせているような句だけれど、言葉遊びの方をWebで検索すると、「にわにはにわにわとりがいる」は92通りの解釈が可能で、「うらにわにはにわにわにはにわにわとりがいる」となると800を超える解釈があるのだという。つまり、現代仮名遣いであれば、これを解釈しようとするとなかなかめんどくさいものなのだけれど、冒頭に接頭語「お」を付し歴史歴仮名遣いに代えるだけでかなり読みが絞り込まれていることがわかる。そこで普通に読めば「お庭には二羽鶏が居る春は」となるだろうが、やや強引ながら、他にも、「お庭には二羽鶏が率る~」、「お庭には二羽丹羽と李が率る~」、「鬼は二派に羽仁羽鳥が率る~」「鬼刃に羽仁羽仁羽鳥が居る~」などと読み替えだすとなんだか不穏な感じになってくる。そのような不穏な言葉を読み替えの中に隠しつつ、ひらがな表記の音の反復によって、ただただ駘蕩とした雰囲気となる春の庭の風景を描いてみせている。この句は作者大畑等の代表句の一つとされているようなのだけれども、個人句集『ねじ式』および急逝後近親者のまとめた遺句集『普陀洛記』(ともに私家版)には掲載がない。上記二句集を読むと、掲句のような機知の働きは共通するけれど、その軽さとはひと味もふた味も違う独特の句風を持つ作家でもあり、むしろそちらが本領ではないかと思われる。

橋本直


【橋本直のバックナンバー】
>>〔27〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ   波多野爽波
>>〔26〕花の影寝まじ未来が恐しき      小林一茶
>>〔25〕海松かゝるつなみのあとの木立かな  正岡子規
>>〔24〕白梅や天没地没虚空没        永田耕衣
>>〔23〕隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな  加藤楸邨
>>〔22〕幻影の春泥に投げ出されし靴     星野立子
>>〔21〕餅花のさきの折鶴ふと廻る       篠原梵
>>〔20〕ふゆの春卵をのぞくひかりかな    夏目成美
>>〔19〕オリヲンの真下春立つ雪の宿     前田普羅
>>〔18〕同じ事を二本のレール思はざる    阿部青鞋 
>>〔17〕死なさじと肩つかまるゝ氷の下    寺田京子
>>〔16〕初場所や昔しこ名に寒玉子     百合山羽公
>>〔15〕土器に浸みゆく神酒や初詣      高浜年尾
>>〔14〕大年の夜に入る多摩の流れかな   飯田龍太
>>〔13〕柊を幸多かれと飾りけり       夏目漱石
>>〔12〕杖上げて枯野の雲を縦に裂く     西東三鬼
>>〔11〕波冴ゆる流木立たん立たんとす    山口草堂
>>〔10〕はやり風邪下着上着と骨で立つ    村井和一
>>〔9〕水鳥の夕日に染まるとき鳴けり    林原耒井
>>〔8〕山茶花の弁流れ来る坂路かな     横光利一
>>〔7〕さて、どちらへ行かう風がふく     山頭火
>>〔6〕紅葉の色きはまりて風を絶つ     中川宋淵
>>〔5〕をぎはらにあした花咲きみな殺し   塚本邦雄
>>〔4〕ひっくゝりつっ立てば早案山子かな  高田蝶衣
>>〔3〕大いなる梵字のもつれ穴まどひ     竹中宏
>>〔2〕秋鰺の青流すほど水をかけ     長谷川秋子
>>〔1〕色里や十歩離れて秋の風       正岡子規


【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。


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