ハイクノミカタ

枯芦の沈む沈むと喚びをり 柿本多映【季語=枯芦(冬)】


枯芦の沈む沈むと喚びをり

柿本多映
『夢谷』2013年


不思議な句である。この「喚び」とは、己らが沈もうとする枯芦自身の悲鳴なのであろうか。それとも、そこに足を踏み入れようとする人間、あるいは他の生き物への警告の喚きなのであろうか。水のほとりに群生する芦の様を離れた所からみていると、たしかにいまにも沈みそうな際際のところ、というか部分的には沈んでいる場所に生えているし、そこに例えば人などが足を踏み入れようものなら、深田のようにずぶずぶと沈んでしまいそうな風にも見える。しかし、もし前者として解釈するのなら、通常なら起きないような大地震による陥没とか、ゲリラ豪雨による異常な水位上昇とかで水没していく、いわば天変地異の中の枯芦を想像してしまう。後者はもう少し想像の余地が広くなるだろうか。水辺の芦の群生の前で沈んでいきそうなものはいろいろありそうだ。舟や人なら危ないが、水生生物や水鳥などには当たり前である。もっとも、そんなことで枯芦が喚ぶとも思われないけれど。してみると、こうやってなんとかしてリアルに寄せて落とし込もうとする解釈ではまるで面白くない句なのかもしれない。この枯芦はただわけもわからず、聞こえる人には近寄るとそのようにわめきたてている存在として感覚されているのではないのか。思えば人にはそれぞれに、そんなものが一人に一つくらいありそうな気がするのだけれど。

橋本直


【橋本直のバックナンバー】

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【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。


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