天高し深海の底は永久に闇中野三允【季語＝天高し（秋）】

ハイクノミカタ

天高し深海の底は永久に闇　中野三允【季語＝天高し（秋）】

2022/8/25
ハイクノミカタ, 橋本直
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天高し深海の底は永久に闇

中野三允
（『三允句集拾遺・俳遍路』）

変な句である。「天」と「深海」なのでわかりやすすぎる取り合わせ。しかも中七下五（正確には字余りの破調。「永久」を「とわ」と読めば中八、「えいきゅう」と読めば中八下七）は別に事実としてはごく当たり前のことしか言っていない。びっくりしたのはこの句の前書で、「鱝の尾を杖として十数年携行、蝶衣所贈」とある。「鱝」はエイ。エイの尻尾が杖になるなんて聞いたことがない。それを送った主は以前ここでも取り上げた高田蝶衣なのだという。蝶衣は淡路島の人だから魚は身近なものであったろうけれども、かといってこの詞書と俳句の中身が関係があるように見えない。句が変なら詞書も変なのである。敢えて言えばエイは底にいる魚類だけど、深海の底にいるエイの姿はちょっと想像しにくい。まったく変なことだらけの句である。

作者中野三允は子規門。子規没後はおおむね虚子と行動を共にし、虚子が碧梧桐の「俳三昧」に対抗してはじめた若手俳人の鍛錬句会「俳諧散心」（いわゆる「日盛句会」の前身）に参加している。が、三允は子規の弟子ということに誇りがあったものか、虚子とは同じ子規門の俳人仲間という風で、虚子を子規の後継者として立てている感じは受けない。この句を見てもわかるが、破調を平気で詠み、有季定型を墨守するようなタイプでもない。明治32年に「早稲田俳句会」を創設。

（橋本直）

【こちら埼玉県幸手市による紹介ページ↓】

【執筆者プロフィール】
橋本直（はしもと・すなお）
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」（邑久光明園）俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』（2011年）、『鬼』（2016年）いずれも私家版。第一句集『符籙』（左右社、2020年）。共著『諸注評釈新芭蕉俳句大成』（明治書院、2014年）、『新興俳句アンソロジー何が新しかったのか』（ふらんす堂、2018年）他。

【橋本直のバックナンバー】

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