
花冷や子をあづけたる空の腕
仙田洋子
句集『子の翼』より。作者のご子息は7月生まれとのことなので、この句の「花冷」の頃には、生後10カ月だったろうか。1998年に出産とあるので、昨今のような保育園の一時預かりやファミリーサポートシステム(研修を受けた地域の住民が、有償ボランティアで子どもの送迎や預かりを行う市区町村の事業)などはまだ定着していなかった頃。おそらく預け先は実家の親などの親族だったのだろう。
「産声は私の人生を変え、彼と寄り添って生きる日々が始まった」と句集あとがきにあるように、出産後はまさに文字通り母子密着しての日々である。子どもはかわいいが、世話に時間も体力も取られているのは正直つらい。やっと人に預けることができて久しぶりに一人だけで外に出たとき、小さなバッグ一つで荷物が済んでしまうことや、階段も躊躇なく早く移動できることに、今まで感じたことのない身軽さと妙な違和感を覚えた作者である。出産前は、重い荷物を運ばない限りは常に空いていたはずの両腕。しかし今や、子どものいない腕の軽さには何かが足りないと感じてしまうのだろう。
この4月から保育園に預ける人は多いだろう。大抵の保育園では2週間前後の「慣らし保育」があり、最初は短時間の預かりで子どもに保育園の人や場所に慣れてもらう。「同じ人・同じ場所」というのは子どもが安心して通うためには必要な要素であり、筆者も句会指導のために、いつも通う保育園だけでなく週末の一時保育や病後児保育に子どもを預ける際は心がけてきた。大事な我が子を他人に預けてまで句会に行って良いのかと迷う時もあったが、定期的に「保育のプロ」の目を通して見てもらうことで、親の自分では気づけなかったような子どもの成長や良い点を沢山教えてもらえた。何よりも多くの人たちに、自分の子どもが愛されて、大切にされている様子を知るのは親として嬉しかった。我が子も、月齢が少し上の子どもたちと過ごす中で沢山の刺激を受けたのか、離乳食もトイレットトレーニングも、すんなりと進めることができた。
保育園に預ける際、大好きな親と離れるのは不安だと、最初は泣かれることもあるかもしれない。だが、子どもの適応力は大人の想像以上に早くて強いもの。保育園を得られるものは、親も子も大きい。子どもを預かってもらうことで、親も子も充実した「良い時間」が過ごせることを願ってやまない。
(渡部有紀子)
【執筆者プロフィール】
渡部有紀子(わたべ・ゆきこ)
「天為」同人。第37回俳壇賞、第9回俳人協会新鋭評論賞。第1句集『山羊の乳』(第1回初花賞)。俳人協会会員。藤沢市俳句協会会員。