神保町に銀漢亭があったころ

【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【6】/宇志やまと(「銀漢」同人)


「伊那男」という名前

宇志やまと(「銀漢」同人


ふり返れば「伊那男」(呼び捨てにしてすみません)という名前からすべてが始まった。

平成の終りの頃。所属していた結社の主宰が高齢のため引退。しかも結社解散。

まだ俳句も心もとなく、結社に頼っていたこともあり、何とかしなければという焦りのなか、「伊藤伊那男」氏の名前が浮かんだ。

というより「伊那」の二文字が強く訴えてきた。

俳人ということは知っていたものの、会ったことも、話したことも、作品もよく知らず、それまでは頭の片隅に存在していた感じではあったが・・・。

「伊那」の二文字が長野県の「伊那市」を自然に思い起こさせた。

実は伊那市は私の実家の隣町。長野県出身の自分にとって県人会のようでもあり、ほっとするような暖かな思いも感じた。

結社の主宰であり、ひょっとしたら長野県出身の方かもしれない。

一度会ってみたいと思ったものの、まったく伝がない。

そんな折、たまたま親友の俳人広渡敬雄氏に話してみたら、「伊那男さんに紹介してあげる」との返事。

あっという間に話が進み、某日「銀漢亭」という俳人の溜まり場、いや呑兵衛たちの溜まり場(笑)で紹介してもらえることとなった。

銀漢亭との初めての出会いであった。

さて当日、少し緊張して出かけたものの、銀漢亭の中は小気味よい酒の香りと俳話の渦。

小さな居酒屋ながら、賑やかで活気に満ちていた。

しばらく回りの雰囲気を見つめながらビールを飲んでいると、奥の厨房で仕事をしていた伊那男氏がわざわざ席まで来てくれた。

名刺交換。もちろん「伊那」のこともしっかりと確認。

やはり長野県の方であった。それだけで第一印象がぐんと高まる。

同県人であること、銀漢俳句会のこと、俳誌のこと、俳歴のことなど話を交わす。

ほぼ同郷のため知っている場所、うなぎの店、鯉こくの店などで盛り上がる。

そして言葉の端々に滲みでる暖かさ厳しさ。その人柄に魅かれ、この人にお世話になろうと、その場で入会を伝え、快く引き受けて頂いた。

入会後の銀漢亭といえば、やはり「酒と句会」の日々、いや「句会と酒」日々。

毎月火曜日に一回開かれる句会「火の会」での刺激。

また伊那男氏を慕う俳人による超結社の四季ごとの「Oh!句会」。

いつも銀漢亭に入りきれない俳人の数に圧倒され、エネルギーの量にも圧倒された。

そして句会の結果の感激と羨望の繰り返し。多くの俳人に出会い、俳友もどんどん増えた。

超結社の良さがいたるところに醸し出され、勉強にもなった。

これらは銀漢亭ならではの、忘れられない思い出のひとつ。

もうひとつは、俳句には酒の力も大きいということ(笑)。

初めて銀漢亭を訪れてから、わずか三年という短期間ではあったが、

伊那男氏の俳句を味わい、伊那男氏の手料理それも郷土料理を味わい、

そして楽しい俳話を存分に味わうことができた。

「喰む・呑む・詠む」という醍醐味。これからも銀漢亭での日々を忘れることはない。


【執筆者プロフィール】
宇志やまと(うし・やまと)
1952年長野県生れ。53歳より俳句を始める。
2017年銀漢俳句会入会
2015年第3回俳句四季新人賞 俳人協会会員


【神保町に銀漢亭があったころリターンズ・バックナンバー】

【5】坂口晴子(「銀漢」同人)「大人の遊び・長崎から」
【4】津田卓(「銀漢」同人・「雛句会」幹事)「雛句会は永遠に」
【3】武田花果(「銀漢」「春耕」同人)「梶の葉句会のこと」
【2】戸矢一斗(「銀漢」同人)「「銀漢亭日録」のこと」
【1】高部務(作家)「酔いどれの受け皿だった銀漢亭」


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