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COVID-19十一月の黒いくれよん 瀬戸正洋【冬の季語=十一月(冬)】

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COVID-19十一月の黒いくれよん

瀬戸正洋


10月30日から12月1日までの約1カ月間にわたり、全国的なロックダウン(都市封鎖)が実施されることになった。ロックダウンはそれ以降もつづく可能性があるという。

ところで、カタストロフィに属する話というのは、いざ語ろうとすると往々にして定型句に陥りがちで、ましてや俳句にするのはとてもむずかしい。

COVID-19十一月の黒いくれよん  瀬戸正洋

瀬戸正洋『亀の失踪』より。ローマ字、記号、アラビア数字、漢数字、漢字、ひらがなといった 6種類もの要素が驚くほどスタイリッシュに配されていて、目の中で文字を転がすと、作品全体をつつみこむようにして音楽が鳴りひびくのがわかる。どうやら韻律がどうこうというのではなく、雑多な因数(文字)のぶつかりあうときの閃き自体が、掲句においてはすでに音楽であるらしい。単純にいって、〈19〉という文字と〈十一〉という文字が、一句の中で不協和音を奏でていないだけでもすごいことである。

句意については、〈黒いくれよん〉という表現がコロナと結びつく不穏なイメージを醸し出してはいるものの、あくまでふわっとした匂いづけに抑えられ、コロナという個別のカタストロフィに意味がくっつきすぎていない。ちなみに掲句は帯にも印刷されていて、その際のレイアウトはこんなふうになっていた。

COVID-19
十一月の
黒いくれよん

作者のまわりに表象する世界を操作なしに、そのままつぎはぎしてみせたような明るい不条理がほんのり香っている。こうして多行書きで眺めると、世界の謎、その未完結性を秘めた句であることがより伝わりやすいように思う。

小津夜景


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記


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