神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第68回】堀田季何

銀河系のとある酒場

堀田季何(「楽園」主宰)

今となっては、いつ最初に訪れたのか思い出せない。いつの間にか、出入りしていた。山岸由佳さんの現代俳句新人賞受賞、堀切克洋さんの俳人協会新人賞受賞、西村麒麟さんの角川俳句賞受賞をはじめとするいくつかの祝賀会、千倉由穂さんのパリへの送別会、毎年の忘年会、誰々の誕生日(それはもう何人も!)、といったハレのイベントから、「アルパカの会」という超結社の句会、さらに、近所の笠間書院さんで「季何学研究所」の選句をした後の編集者との飲み、近所のシンクタンクで仕事の打合せをした後の一人飲み……。常連たちに比べては大した頻度ではなかったと思うが、あまりお酒を飲めない自分にしては、人生最も多く立ち寄った飲み屋だと思う。最も多く酔っ払った飲み屋でもある。

(恒例(?)の「早太郎の帽子を被る」儀式)

行けば、絶対に知っている人に出会える。人がほとんど入っていなかった日でも、オーナーの伊藤伊那男さんやお店を手伝っていた天野小石さんがいた。竹内宗一郎さん岸田祐子さん相沢文子さん阪西敦子さんとの遭遇率、いえ、邂逅率も高かった。結社でいえば「銀漢」「ホトトギス」「天為」「未来図」の人たちが特に多かったという印象である。イベントがあった時は、知っている人も知らない人も多くて、今の言葉で言えば「密」そのものだった。パーソナルスペースなど望むべくもなかった。様々な機会に様々な人たちが様々なところから来ていて、雑多で、怪しくて、家庭的で、私は密か(これも密!)に「銀漢亭」を〈銀河系のとある酒場のヒヤシンス 橋閒石〉のような場所だと思っていた。松本零士の漫画に出て来そうな、ハーロックやトチローが利用していそうな宇宙酒場である。何たって店名が「銀漢亭」なのだ。

(往時の「密」なお祝い会)

誰かいないかなと、それだけのためだけではないがそれだけのために(←変な日本語だ)「銀漢亭」に顔を出すことが多かった。思えば、「卯波」だと敷居も予算も高く、知っている人がいてもお偉いさんばかり、「ボルガ」だと知っている人と会える確率が少なく、「JazzBarサムライ」は大人すぎて(?)、「銀漢亭」が私の身の丈に合っていた。いや、正しくは、「銀漢亭」に私を受け入れる包容力があったのだ。まさに銀河系。


【執筆者プロフィール】
堀田季何(ほった・きか)
東京都在住。「楽園」主宰、現代俳句協会幹事。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【新連載】「野崎海芋のたべる歳時記」 兎もも肉の赤ワイン煮
  2. 神保町に銀漢亭があったころ【第42回】黒岩徳将
  3. 【第5回】ラジオ・ポクリット(ゲスト:岡田由季さん)
  4. こんな本が出た【2021年2月刊行分】
  5. 【#32】『教養としての俳句』の本作り
  6. 【連載】「野崎海芋のたべる歳時記」 ブリニとタラマ
  7. 【連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#16
  8. 【連載】新しい短歌をさがして【12】服部崇

おすすめ記事

  1. 「野崎海芋のたべる歳時記」ゼブラのガトー
  2. 【春の季語】春野
  3. 白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男【季語=白夜(夏)】
  4. 【春の季語】沈丁花
  5. 火達磨となれる秋刀魚を裏返す 柴原保佳【季語=秋刀魚(秋)】
  6. 【秋の季語】野菊
  7. 品川はみな鳥のような人たち 小野裕三
  8. 「十六夜ネ」といった女と別れけり 永六輔【季語=十六夜(秋)】
  9. さへづりのだんだん吾を容れにけり 石田郷子【季語=囀(春)】
  10. 本州の最北端の氷旗 飯島晴子【季語=氷旗(夏)】

Pickup記事

  1. 【春の季語】春月
  2. 【冬の季語】手袋
  3. 肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子【季語=秋(秋)】
  4. 牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等【季語=牡蠣(冬)】
  5. ハイシノミカタ【#2】「奎」(小池康生代表)
  6. どちらかと言へば麦茶の有難く  稲畑汀子【季語=麦茶(夏)】
  7. ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子【季語=野菊(秋)】
  8. 【#32】『教養としての俳句』の本作り
  9. 秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音【季語=秋草(秋)】
  10. 【秋の季語】秋分の日
PAGE TOP