神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第97回】岸田祐子


俳句以外の

岸田祐子(「ホトトギス」)


俳句以外の銀漢亭に最初に行ったのがいつだったけ?と考えてみたのだけどまったく思い出せなかった。まだ大手町に通っていたころだった気がするのでたぶん2011年とかそれくらいだと思う。「俳人が集まるお店なんだよ」と、誰かに連れて行ってもらったはずだけどそれが誰なのかもすっかり忘れてしまった。ただ、私の交友関係はかなり狭いのであっちゃん文ちゃんのどちらかだろうと思っている。

銀漢亭の第一印象は、「みんな俳句が好きすぎる」という驚きだった。飲みながら句会して飲みながら俳句の話していて、何から何まで俳句だらけ。俳人とはこんなに俳句ばっかりするものなのかと圧倒されてしまった。

当時(というか今でも)、私は月1、2回の句会でさえさぼり気味だったし、俳句雑誌や句集もほとんど読んでいなかった。結社誌も自分の句が載っているかどうかをチェックするくらいで他の人の俳句を気にしたことがなかった。だから、俳句の話題をふってもらってもわからないことの方が多かった。また、銀漢亭で開催される華やかな句会にも何度か声をかけていただいたけど、人見知りなこともあってほとんど参加しなかった。どちらかといえば、私が好きな銀漢亭は、人がたくさん集まるにぎやかな銀漢亭より、顔見知りの方が4、5人いて飲みながら他愛のない話ができる銀漢亭だった。

一番多く行った曜日は、たぶん月曜日のうさぎさんデー。会社の愚痴をよく聞いてもらった。金曜日のいづみさんとは推しへの熱い想いを語るヲタク的な話ができたし、季何さんと会えた日は占いの話ができるのが楽しかった。お名前を失念してしまったのだけど、民俗学の研究をされている方にたまたま会ってダムに沈む村の調査をしたお話を聞けた時は、本当に面白かった。

銀漢亭への入口は俳句だったけれど、俳句のことを考えずに「楯野川おいしいなー」とか「栃尾の油揚げ最高」とか思いながら一日を締めくくるのが好きだった。 閉店以降、神保町へは行っていない。ちょっと泣いちゃいそうだから。


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
1968年生まれ。ホトトギス所属、日本伝統俳句協会会員。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。ビールとダムが好きなアシュタンギ、占いが得意。



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