神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第83回】対馬康子

青春しました

対馬康子(「麦」会長・「天為」最高顧問)

私の「天為」編集長時代は銀漢亭と共にあった。銀漢亭は天為編集部のすぐそば、駅への帰り道だったので、建ち始めの工事の時から知っているのはちょっと自慢。

オープンしてすぐ、紅林照代さん、天野小石さんなど編集部仲間と立ち寄った際、入口の木製デッキの七夕竹飾りに俳句が書いてあって、何やらご縁を感じながらも、その店の亭主が伊藤伊那男という俳人(お名前は存じていたが)であることは、それから後に、中原道夫さんと店で偶然お会いするまで知らず、驚いたのだった。

編集作業が終ると皆で寄って、モルツビール片手に俳句について、編集について真剣に語り合った。銀漢亭のおかげで友人も増えた。谷口いづみさんとは私の好きな宝塚歌劇の話で大いに盛り上がった。夫の西村我尼吾も息子も娘も誘って一緒に飲んだ。

伝説の「湯島句会」では、参加者が毎回店内に入りきらないほど熱気がすごくて、句歴も所属も関係なく繰り広げられる句会は、まるで悟空の天下一武道会のよう。その運営を一手に引き受けてくださった「銀漢」の方々はたいへんなご苦労であったと思う。

気軽に飲み、語り合うことができない時代が来るとは思いもよらず、前年末に角川「俳句」立木成芳前編集長とご一緒したのが銀漢亭での最後となった。俳句愛好者たちが「神保町銀漢亭」の夜空に吸い寄せられるように集っていた幸せな時間。銀漢亭、ありがとう!


【執筆者プロフィール】
対馬康子(つしま・やすこ)
「麦」会長・「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。2020年度「NHK俳句」選者。2015年文部科学大臣表彰。荒川区特別功労者。第10回桂信子賞受賞。



  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【書評】仙田洋子 第4句集『はばたき』(角川書店、2019年)…
  2. 神保町に銀漢亭があったころ【第117回】北村皆雄
  3. 神保町に銀漢亭があったころ【第44回】西村麒麟
  4. 【短期連載】茶道と俳句 井上泰至【第3回】
  5. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年6月分】
  6. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第14回】お茶の水と川崎展宏…
  7. シゴハイ【第1回】平山雄一(音楽評論家)
  8. 【#37】『愛媛 文学の面影』三部作受賞と愛媛新聞の高橋正剛さん…

おすすめ記事

  1. 誰も口にせぬ流氷の向かうの地 塩崎帆高【季語=流氷(春)】
  2. 「けふの難読俳句」【第8回】「眴」
  3. 怒濤聞くかたはら秋の蠅叩 飯島晴子【季語=秋(秋)】
  4. 神保町に銀漢亭があったころ【第20回】竹内宗一郎
  5. 【春の季語】蟻穴を出づ
  6. 父がまづ走つてみたり風車 矢島渚男【季語=風車(春)】
  7. こんな本が出た【2021年5月刊行分】
  8. 天狼やアインシュタインの世紀果つ 有馬朗人【季語=天狼(冬)】
  9. 熟れ麦はほろびのひかり夕日また 石原舟月【季語=熟れ麦(夏)】
  10. 【春の季語】屋根替

Pickup記事

  1. 【冬の季語】枯野
  2. しかと押し朱肉あかあか冬日和 中村ひろ子(かりん)【季語=冬日和(冬)】
  3. 神保町に銀漢亭があったころ【第92回】行方克巳
  4. 【秋の季語】鵙の贄
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第121回】堀江美州
  6. 年を以て巨人としたり歩み去る 高浜虚子【季語=行年(冬)】
  7. 【夏の季語】梅雨明
  8. 少し派手いやこのくらゐ初浴衣 草間時彦【季語=初浴衣(夏)】
  9. 春立つと拭ふ地球儀みづいろに 山口青邨【季語=春立つ(春)】
  10. 一年の颯と過ぎたる障子かな 下坂速穂【季語=障子(冬)】
PAGE TOP