【連載】歳時記のトリセツ(10)/小津夜景さん


【リレー連載】
歳時記のトリセツ(10)/小津夜景さん


今年2022年、圧倒的な季語数・例句数を誇る俳句歳時記の最高峰『新版 角川俳句大歳時記』が15年ぶりの大改訂! そんなわけで、このコーナーでは、現役ベテラン俳人のみなさんに、ふだん歳時記をどんなふうに使っているかを、おうかがいしています。歳時記を使うときの心がけ、注意点、あるいは歳時記に対する注文や提言などなど……前回の干場達也さんからのリレーで、第10回はフランス・ニース在住の小津夜景さんです。


【ここまでのリレー】村上鞆彦さん橋本善夫さん鈴木牛後さん中西亮太さん対中いずみさん岡田由季さん大石雄鬼さん池田澄子さん干場達矢さん→小津夜景さん


──初めて買った歳時記(季寄せ)は何ですか。いつ、どこで買いましたか。

角川書店編『新版季寄せ』です。2013年10月27日にアマゾンで注文しました。

──現在、メインで使っている歳時記は何ですか。

インターネットの「きごさい歳時記 : 季語と歳時記」です。

──どの歳時記にも載っていないけれど、ぜひこの句は収録してほしいという句があれば、教えてください。大昔の句でも最近の句でも結構です。

季寄せの掲載句を読んだことがないので…。未収録かどうかはわかりませんが、戦前のハワイの『層雲』系自由律が好きなので候補にあげてみます。〈夢がにっぽんのことであって虫に啼かれる/丸山素仁〉とか〈コーヒー沸く香りの朝はハツトハウスの青さで/古屋翠渓〉とか。

角川書店編『新版季寄せ』

──自分だけの歳時記の楽しみ方やこだわりがあれば、教えていただけますか。

なにもないです。

──自分が感じている歳時記への疑問や問題点があれば、教えてください。

とくにないですね。

──歳時記に載っていない新しい季語は、どのような基準で容認されていますか。ご自分で積極的に作られることはありますか。

そもそも「容認する/しない」という目線で俳句を眺めたことがないです。新しい季語をつくるというのは面白そう。やってみたいな、という気分になってきました。

──そろそろ季語として歳時記に収録されてもよいと思っている季語があれば、理由とともに教えてください。

日本の生活がわからないのでなんとも…。フランスに来て20余年経ちますが、帰国していた期間はせいぜい6ヶ月程度なんですよ。

──逆に歳時記に載ってはいるけれど、時代に合っていないと思われる季語、あるいは季節分類を再考すべきだと思われる季語があれば、教えてください。

歳時記とは四季をめぐる物語の規範であって現実ではありません。だからミミズが鳴いたり、龍が天に上がったりする。分類を変えたところで、それもまた俳風のフィクションにすぎないのですから、わざわざ季語を廃止したり、分類を変更したりして、俳句が培ってきた宇宙を破壊する必要はないと思います。

──季語について勉強になるオススメの本があったら、理由とともに教えてください。

野尻抱影『星三百六十五夜』。星の四季って素晴らしいですよね。

──最後の質問です。無人島に一冊だけ歳時記をもっていくなら、何を持っていきますか。

毎日ちょっとずつ島を探検して、自力で一から季語の体系を創ってみたいですね。ホニャララ島歳時記。だいたい島の様子がわかったら、生活関係の季語も。お祭りとか。料理の名前もいろいろ凝りたい。

──以上の質問を聞いてみたい俳人の方がもしいれば、ご紹介いただけますか。テレフォンショッキング形式で…

佐藤りえさん。りえさんは短歌と俳句の二刀流で、俳句で常識とされていることをかなり客観的に眺めていて、お話していると目が開かれることばかりなんですよ。歌集も上梓している俳人として、面白いお話を伺えるのではないかと思います。

──それでは次回は、短歌と俳句の双方に関わられている「豈」同人の佐藤りえさんにお願いしたいと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。


【今回、ご協力いただいた俳人は……】
小津夜景(おづ・やけい)さん
1973年北海道生まれ。海と散歩と音楽が好き。海風は風速5メートルくらいが好き。用事の時間合わせで入った喫茶店の、ほんの10分ほどの時間だけする読書が好き。11月24日に新しい句集『花と夜盗』が出ます。



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