【連載】
歳時記のトリセツ(3)/鈴木牛後さん
今年2022年、圧倒的な季語数・例句数を誇る俳句歳時記の最高峰『新版 角川俳句大歳時記』が15年ぶりの大改訂! そんなわけで、このコーナーでは、現役ベテラン俳人のみなさんに、ふだん歳時記をどんなふうに使っているかを、おうかがいしちゃます。歳時記を使うときの心がけ、注意点、あるいは歳時記に対する注文や提言などなど……前回の橋本善夫さんからのご指名にて、第3回は「雪華」「藍生」「itak」の鈴木牛後さんです!
――初めて買った歳時記(季寄せ)は何ですか。いつ、どこで買いましたか。
河出文庫の平井照敏編「新歳時記」。本意が載っているので良い、とどこかで聞いたので。
――現在、メインで使っている歳時記は何ですか(複数回答可)。
角川俳句大歳時記がメイン。平凡社の俳句歳時記(飯田蛇笏他)と、さきほどの「新歳時記」をときどき参照しています。
――歳時記はどのように使い分けていますか。
角川は机上で。持ち歩くときは「新歳時記」。でも最近は出先ではスマホアプリの角川の歳時記で間に合わせています。
――句会の現場では、どのように歳時記を使いますか。なるべく具体的に教えてください。
わからない季語があったら調べるくらいです。
――どの歳時記にも載っていないけれど、ぜひこの句は収録してほしいという句があれば、教えてください。大昔の句でも最近の句でも結構です。
いろいろあると思いますが、ひとつ挙げれば
白梅や天没地没虚空没 永田耕衣
――自分だけの歳時記の楽しみ方やこだわりがあれば、教えていただけますか。
北海道で刊行された歳時記を眺めるのは好きです。意外なものが載っていたり、当然載っていると思っていたものが載っていなかったり、いろいろと発見があります。
――自分が感じている歳時記への疑問や問題点があれば、教えてください。
北海道の人間としては、季節感が中央偏重で地方への目配りが少ないことが気になります。
――歳時記に載っていない新しい季語は、どのような基準で容認されていますか。ご自分で積極的に作られることはありますか。
季節感があれば歳時記に載っていなくても良いと思います。自分では「春雪光」という季語を考えたので、積極的に使いたいと思っていて、実際に使っています。
――そろそろ季語として歳時記に収録されてもよいと思っている季語があれば、理由とともに教えてください。
たとえば「屋根雪崩」などはどうでしょう? トタン屋根が一般的な北海道では、春に豪快な落雪が見られ、ときどき人が埋まって亡くなる事故などもあります。「雪崩」の傍題として載っていてもいいのではないかと思います。あと、最近「雪華」に「除雪機」の句が載っていましたが、これも事象としてはかなり一般的なのに、歳時記に載ってません。俳句もほとんど作られていないでしょうが、「雪掻」の傍題として載っていてもいいのではないでしょうか。
――逆に歳時記に載ってはいるけれど、時代に合っていないと思われる季語、あるいは季節分類を再考すべきだと思われる季語があれば、教えてください。
歳時記からはなるべく季語を削除しない方が良いと思います。文化のインデックスとして残しておくことも重要かと。季節分類に関しては、流氷は春の季語ですが、接岸するときはまだ冬ということと、流氷が寒さを引き連れてくるという実感を鑑みれば、冬の季語とする方が妥当と思います
――季語について勉強になるオススメの本があったら、理由とともに教えてください。
宮坂静生「季語の誕生」(岩波新書)。同じ著者の「季語体系の背景」(岩波書店)。宮坂氏の「地貌季語」の考えは重要な示唆を与えてくれます。
――最後の質問です。無人島に一冊だけ歳時記をもっていくなら、何を持っていきますか。
「カラー図説日本大歳時記」の合本版。分厚くて読み応えがありそうだし、読み物としても面白いので。
――以上の質問を聞いてみたい俳人の方がもしいれば、ご紹介いただけますか。テレフォンショッキング形式で…
中西亮太さん(「円座」「秋草」)。北海道居住歴があって東京在住ということで、どんなことを書かれるか楽しみです。
――お忙しいなか、ご協力ありがとうございました。それでは次回は、「円座」「秋草」の中西亮太さんにお願いしたいと思います。
【今回、ご協力いただいた俳人は……】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)さん
1961年北海道生まれ、北海道在住。「藍生」「雪華」所属、俳句集団【itak】幹事。第64回角川俳句賞受賞。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】