歳時記のトリセツ

【連載】歳時記のトリセツ(8)/池田澄子さん

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【リレー連載】
歳時記のトリセツ(8)/池田澄子さん


今年2022年、圧倒的な季語数・例句数を誇る俳句歳時記の最高峰『新版 角川俳句大歳時記』が15年ぶりの大改訂! そんなわけで、このコーナーでは、現役ベテラン俳人のみなさんに、ふだん歳時記をどんなふうに使っているかを、おうかがいしちゃます。歳時記を使うときの心がけ、注意点、あるいは歳時記に対する注文や提言などなど……前回の大石雄鬼さんからのリレーで、第8回は「豈」「トイ」の池田澄子さんです!


【ここまでのリレー】村上鞆彦さん橋本善夫さん鈴木牛後さん中西亮太さん対中いずみさん岡田由季さん大石雄鬼さん→池田澄子さん


――初めて買った歳時記(季寄せ)は何ですか。いつ、どこで買いましたか?

どれを買おうか考えたことはあるのですが自分で歳時記を買ったことがないことに気付きました。俳句に出会わせてくれた友人から簡単な歳時記を戴いて、初めて句会を経験したのが1975年1月。その3月、39歳になった誕生日、夫が嬉しそうにプレゼントを抱えて帰宅しました。両手で持てる四角なもので、リボンが結ばれていました。想像がつきません。夫は嬉しそうに私の反応を眺めていました。開きました。なんと、それは歳時記。

――な、なんと。

『山本健吉編、・最新俳句歳時記・文藝春秋刊』春、夏、秋、冬、新年の5冊。今、改めて見て測ってみました。11センチ×17センチ×高さが11.5センチでした。リボンをかけるのに最適の大きさ。その日から読み始めました。全部、通して読んだ筈です。幅広のビニールテープなどで補強してなんとか形はある、というぼろぼろ。背には私が油性のペンで「春」とか「夏」とか書き足した、その文字も薄れています。

これがその健吉歳時記。

もう一冊は、2006年発行の『角川・俳句大歳時記』。執筆、例句収集協力ということで、頂きました。

歳時記ではありませんが、編者・三谷昭、俳句研究社発行の『現代俳句用語表現辞典』は自分で買って、歳時記と全く同じ感覚で、これもほぼ全部を通して読んだ筈。その殆どを忘れているかもしれませんが、でもその時の、感動にわくわくした日々の気持ちが今も私を育ててくれていると感じています。

編者・三谷昭、俳句研究社発行の『現代俳句用語表現辞典』(1989年)

 

――現在、メインで使っている歳時記は何ですか?

日常的に使っているのは、電子辞書に入っている『角川大歳時記』。

落ち着いて、例句などをきちんと見たいときは何故か、紙の、角川の大きな歳時記です。

――歳時記はどのように使い分けていますか?

引用などのために読む、書き写す、その時は何故か、紙の方を見ないと気がすみません。

歳時記を眺めることで、自分の俳句を書こうとすることは全くありません。書いた結果、例えば鳥や魚、どの季節ということになっているか、花の別名などを念の為に確かめて、句の並べ方の参考にする、というような使い方が多いと思います。

――どの歳時記にも載っていないけれど、ぜひこの句は収録してほしいという句があれば、教えてください。大昔の句でも最近の句でも結構です。

考えたことがありませんでした。

――自分だけの歳時記の楽しみ方やこだわりがあれば、教えていただけますか?

初めて歳時記を読み始めた時の、初めから全部読み進めるスリル、ときめきよもう一度!という気持ちはありますが、無理でしょう多分。開くのは殆ど念の為の確かめです。

――自分が感じている歳時記への疑問や問題点があれば、教えてください。

何方もが思っていらっしゃることでしょうけど、選句をなさる方は、個人の主義や好みとはまた別に、広い見識をもって宜しくお願いします、という気持ちです。

――歳時記に載っていない新しい季語は、どのような基準で容認されていますか? ご自分で積極的に作られることはありますか?

新しい現象を、すぐに歳時記に反映させるということは無理でしょう。でも、明らかに、この世の中では決まって行われているコトやモノはありますから、それが歳時記にないから俳句としてその句はダメ! と言い募るのは、勿体ないなぁ、狭いなぁと感じます。他の季語を加えておけば有季の俳句として通るわけですが、それは本当は季重なりで気持ち悪いし、それはまた随分と野暮な、と個人的には思います。

季語がないからダメと言われたら、成程ね、くらいの気持で私は書き、選びます。無季の句に分類されても読む人は季節を感じる筈、別にかまいません。歳時記に入っていないからダメ!と声高に主張するのは野暮、とは感じます。感じるだけです。

池田澄子さんの本棚の歳時記コーナー(ご本人提供)!

――そろそろ季語として歳時記に収録されてもよいと思っている季語があれば、教えてください。

例えば、「ボジョレーヌーヴオー」など充分に季節を感じます。感じると言うよりも、その言葉を聞いて、11月以外を思う人は居ません。

――逆に歳時記に載ってはいるけれど、時代に合っていないと思われる季語、あるいは季節分類を再考すべきだと思われる季語があれば、教えていただけますか。

載っていて、自分には関係のないことは幾らでもあるわけで、余りそのことに違和感は持ちません。そういうコトやモノが昔あったのね、そういう暮らしがあったのね、と教えていただく気持ちで愉しいです。ただ、例えば句会で「竈猫」と出てくれば、え? 炬燵猫は居ても竈猫って今、居ます?って反論するでしょう。

今、ひょっと開いた頁に「宝船敷く」と出てきました。そういうこと今する人いらっしゃらないかな。でも、そういうことをする人間の可愛さなど、ふと思います。そういうコトあったのねとほっこりします。実は今でも居そうな気もしてきます。してみたいな、という気にもなってきました。

その項の例句は蓼太、蕪村,召波の三句だけです。責任持たない言い方ですが、もし例えば「宝船敷きたし」と書けば、現代の普通の人の普通の思いの俳句にもなり得る、そんなことをふと思いました。

――なるほど。目の前になくても「思い」を詠むことはできますね。

長くなりますが、初めて歳時記を読み始めたとき、夏の部で「七夕」を探したことを思い出しました。いくら探しても見付からないので慌てました。

よく言われる朝顔。涼しくなって初めて、朝顔は美しく咲きます。朝顔が綺麗に咲くようになると、秋だなぁと思います。実感として朝顔は秋の花です。

「立秋」と「夏休み」の関係がすっきりしなくて混乱するのです。だからと言って立秋を八月末に変えてくださいと言うわけにもいかず。

――池田さんから見て、季語について勉強になるオススメの本があったら、教えていただけますか。

私は知識欲が薄いらしく、俳句を詠む為には、現実、実景、或いは今の自分の気持ちやら妄想やら体感やら、それで充分で、それが頼りです。なので、考えたことがありませんので思い付きません。

――これが最後の質問です。無人島に一冊だけ歳時記をもっていくなら、何を持っていきますか。

電子辞書は電池が必要ですから、電池いっぱい持っていこうかしら。それとも、初めて自分で、分厚くなくて一冊で一年分の歳時記を、探して買いますか。

いえ、それよりも大事なのは、無人島で一人で暮らすなんて絶対にしたくないってこと。俊寛だって、泣き叫んだではありませんか。「楽に早く死ねる方法」の本を持っていくかも。

――以上の質問を聞いてみたい俳人の方がもしいれば、ご紹介いただけますか。テレフォンショッキング形式で…

次は、干場達矢さんへ。

本当は思いがけない人へ、というのがお洒落だと思うのですが、「トイ」という5人だけの薄~い同人誌の編集をしてもらっている友人です。俳句を始めた途端にコロナウイルスの騒ぎになって、俳人に会い語り合う機会がないまま、ひたすら書いている人です。お連れ合いに、何故アナタが俳句を書くのかと不思議がられているらしいです。突然、俳句に深入りしてしまった人。紙の歳時記は持ってるのかしら。

――それでは次回は、「トイ」の編集をされている干場達矢さんにお願いしたいと思います。本日は、お忙しいなか、ご協力ありがとうございました。


【今回、ご協力いただいた俳人は……】
池田澄子(いけだ・すみこ)さん
1936年、鎌倉に生まれ新潟で育つ。三橋敏雄に師事。作品を読んだことで、見たこともない俳人を師として選んだことが唯一の自慢。「豈」「トイ」所属。句集・『此処』他。散文集・『本当は逢いたし』他。

かわいすぎる表紙のエッセイ集。
第72回読売文学賞受賞作!


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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