風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値
石田波郷
一般にはそれほど知られていないかもしれないが、波郷の代表句のひとつ。
個人の境涯というよりは、戦後から間もない社会を詠った句で、評論家の筑紫磐井は、この句が「波郷の中では、最も社会性俳句に近い」と述べている。
つまり、「時代」が前書になっているということだ。「値」といっている以上は、それが自分から遠く感じられるほど、高価だったのだろう。
「風の日や風吹きすさぶ」という前半の表現からは、焦土と化した東京で、ただ風があるばかり、という寒々しい光景が浮かぶ。
同じ句集『雨覆』の少し前には、〈短夜の目をつむらねば飢餓の国〉がある。焦土の砂町に引っ越した直後のことだ。
とはいえ最近は、サンマも高くなった気がする。スーパーで「1尾100円」で売られていることさえ、あまり見なくなった。昔は「3尾で100円」とかも、よく見かけたような気がするんだけど。
サンマは北太平洋の温帯・亜寒帯域に生息しているので、温暖化で海水の温度が上昇すれば、当然、日本近海にはやってこなくなる。
1950〜60年代前半は、年間の水揚量が40万~60万トンに達することもあったが、90年以降は30万トンを超えることはほとんどなく、2019年に至ってはなんと「4万トン」!
いやはや庶民にとって、サンマの値札に「風吹きすさぶ」日は、わりと日常化しているのかもしれない。
「コレラ船」の句が、新型コロナウイルス騒ぎで、リアリティを復活させたように、ここのところの温暖化で、文脈は異なるけれど、この波郷の句もそのうちリアルに感じられる日も案外近いかもしれない。
いや、それよりも先に「秋刀魚」自体が、絶滅季語化されてしまうのか?
それは困る。
なんとしてでも、温暖化を食い止めなければならない。
(堀切克洋)