神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第15回】屋内修一

青春時代

屋内修一(「天穹」主宰)

第二の青春時代が終わった、私は今そのことを痛切に感じています。それほどに銀漢亭の存在は私にとって大きかったのです。

いや、私だけではありません。俳句界においても、銀漢亭は本当に大きな存在でした。俳句総合誌や俳人協会の新聞で、銀漢亭閉店のニュースが報じられていることがその証です。

コロナ騒動がなくても、伊那男先生は本年一杯を目途に閉店の予定でおられたようですが、閉店の時期が早まっただけでも、コロナ憎しの気持ちに変わりはありません。

銀漢亭に行けば先生に会える、誰か俳人がいる、俳句の話が出来る、そんな日々があったことが、なんと貴重だったことでしょう。銀漢亭がなくなった今、そのことを痛切に感じています。今なお、この喪失感をどうすることも出来ないでいます。

私の俳句は53歳からのものですので、俳人としては全く遅い出発です。そんな私に俳句の青春時代を味合わせてくれたのが、銀漢亭でした。楽しい酒を飲み、俳句談議に耽り、気持ちは青春真っ只中でした。あまりの楽しさについついの長尻。最終電車になることもしばしば。そのあとの失敗もいろいろ。青春の蹉跌(?)そのものでした。

私は新聞記事で銀漢亭と伊那男先生の存在を知りました。新聞で読む先生の履歴に、自分と重なる部分があるように感じて銀漢亭を訪れました。それが俳句を始めて10年目の頃でした。

自分の俳句を捜して暗中模索の状態でしたので、作りためた俳句をカウンター越しに先生に見て貰ったりもしていました。流石に、先生が結社を立ち上げられてからは、一投句者として結社誌で選を仰ぐことにしました。

このカウンター越しの伊那男教室の仲間で、今やいくつもの賞を取り、俳壇での地歩を固めつつある俳人に成長した人もいます。彼も同じように大学ノートに書き溜めた俳句を先生に見て貰っていました。

誰にでも門戸を開き、一緒に俳句を楽しもうという先生の俳句に対する姿勢や温かいお人柄に惹かれて、人が人を呼ぶ形で銀漢亭に俳人が集まって行きました。俳人を引き付ける磁場が銀漢亭でした。

その象徴のような句会が「湯島句会」でした。『俳句』2020年8月号で先生もこの句会に触れ、最終回には108人からの投句があり、その投句者の所属結社が28に上っていたと書かれています。それほどに魅力のある句会でした。

この句会で知り合った俳人が今の私の宝になっています。堀切氏もその中の一人です。彼がまだ俳句を始めて間もない頃、彼の句を特選で頂いたことがありました。その後の彼が、実作に評論にと俳壇で大活躍する存在になった今では、出発間もない彼の句を特選に採れたことが、今の私の勲章になっています。

銀漢亭で知り合った方々から多くの刺激を受けましたし、学ばせて頂きました。俳人として、本当に大きなご恩を先生に、そして銀漢亭に感じています。


【執筆者プロフィール】
屋内修一(やうち しゅういち)
昭和19年松山市生まれ。平成10年「天穹」入会、平成22年「銀漢」入会、平成29年「銀漢」退会、令和元年「天穹」主宰。



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