【冬の季語=三冬(1月)】河豚
「ふぐのうまさというものは実に断然たるものだ、と私は言い切る」
と語ったのは美食家であった北大路魯山人。「河豚のこと」と題されたエッセイの冒頭の一文である。魯山人は、そのうまさを推古の時代の仏の美しさなどに喩えている。
河豚汁や鯛もあるのに無分別 芭蕉
という句に対し、魯山人は「ちょっとしたシャレに過ぎない」と切り捨てているが、朝鮮出兵の折、九州に渡った将兵たちが河豚に当たって大勢が死んだことから、豊臣秀吉が河豚食禁止令を出し、江戸時代になってもおおっぴらに食すことのできないものであった。
一茶は〈五十にて河豚の味を知る夜かな〉〈河豚食わぬ奴には見せな富士の山〉などと、そのうまさを絶賛している。たしかにその淡白な品の良い味わいは、大人になってから知る喜びのひとつかもしれない。井上井月にも〈河豚汁や女だてらの茶碗酒〉など、河豚の句が多い。
漢字で「河豚」と表記するが、「河」と書くのは中国で食用とされるメフグが河川など淡水域に生息する種であるため。また、このメフグが豚のような鳴き声を発することから「豚」の文字があてられているとされる。「鰒」「鮐」「魨」「鯸」「鯺」「吹吐魚」「鯸䱌」という字を当てることもある。
産地としては下関が有名。また消費地としては大阪が有名である。
敵を威嚇するために体を膨らませる姿がよく知られる。この姿から英語では「ふくらむ魚」という意味を持つ語(puffer fish)で呼ばれる。韓国語でポクと呼ばれており、その意味は「膨れる」といったもの。日本語では「ふくらむ」ことに加えて「福」という言葉にもひっかけた縁起物ともされている。
【河豚(上五)】
河豚刺身何しんみりとさすものぞ 中村汀女
河豚食べて粗悪な鏡の前通る 横山房子
捨てし河豚小石を嚙んでいたるなり 中村和弘
【河豚(中七)】
まつぴるま河豚の料理と書いてある 京極杞陽
極道に生れて河豚のうまさかな 吉井勇
蝗々と河豚を食べたる通り雨 栗林千津
【河豚(下五)】