嘘も厭さよならも厭ひぐらしも 坊城俊樹【季語=ひぐらし(秋)】

 情景を鮮やかに切り取ろうとする冷静な視点は、どこまでもリアルを追求し、突き詰めたすえに、怖さをはらむ句を生んだ。

  刃物もつ父かもしれぬ緑蔭に

  人土に還りしあたり羽脱鳥

  お面らの笑みて祭を売れ残る

  曼珠沙華夕べの血塗より黒し

  蠅の来て我見て彼岸へと戻る

  寒鴉やさしき屍より翔てり

  凍蝶か凍蝶の死か吹かれあり

 逆に滑稽味をはらませた句も多い。滑稽に詠もうとして詠んだのではなく、結果的に可笑しみのある句になったともいえる。こちららが本領なのではないだろうか。

  ががんぼとなるあめんぼの夕べかな

  蟻地獄より満腹の煙立つ

  発条を巻きすぎてゐる法師蝉

  渋柿を喰うて砂漠となりし口

  日脚伸ぶとは護美箱の中までも

  花喧嘩とは痴話喧嘩ほどのこと

  寝太郎も寝釈迦もをりて花筵

  わがままな爪につつまれ木瓜の花

 一族を詠んだ句は、華やかさと淋しさを持つ。淋しく詠むことで華やかさを持たせる詠みぶりは、平安時代の貴公子を思わせる。

  華族なり常盤木落葉色色し

  手鏡の中の蛍は母のもの

  姉母似妹母似鳳仙花

  虫いくつ玉虫に生れかはりたり

  虚子の忌の極楽行の人ばかり

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