季語・歳時記

【秋の季語】秋の暮/秋の夕 秋の夕べ

【秋の季語=晩秋(10月)】秋の暮/秋の夕 秋の夕べ

【解説】これは俳句のルールなのですが、「秋の暮」は「秋の夕暮」のこと。なので、傍題には「秋の夕」があります。一方、秋の終わりのことは「暮の秋」。「夜の秋」が晩夏の季語で、「秋の夜」が秋の季語、みたいな。いや、ちょっと違うか。

しかし実際には、「秋の暮」は、秋そのものが暮れて=終わっていく、つまり暮秋の意味でも用いられてきたという経緯もあります。高浜虚子などは、和歌に由来する「秋の夕暮」の意味に限定して使っているので、そういう記述はいまでも見られますが、単なる「間違い」と見るのは即断、としたのは、俳句評論家の仁平勝さん。くわしくはこちらをご参照ください。→ 仁平勝『秋の暮』沖積舎、2005年

とくに最近は残暑が長引く傾向にあり、8月は言うまでもなく、9月になっても「秋暑し」な年ばかり。いや、10月になっても「秋暑し」なことだってあります。そんな状況では、いかに和歌に由来するとはいってみても、実質的に「秋の暮」が「暮秋」を表すことなんて、ざらにあるわけです。むしろ、8月、9月の「秋の夕暮」に〈秋〉を感じるというのは稀有なことではないでしょうか。残暑の夕暮に〈秋〉を感じます、という人がいるなら、話は別ですが。

もうひとつ、秋の暮といえば、加藤郁乎が『秋の暮』という句集を昭和55年5月5日に、ゴーゴーゴーな感じで出しています。限定250部なので、古書店で見つけたら「買い」ですよ!

【関連季語】春夕焼、夕焼(夏)、西日(夏)、秋夕焼、秋の夜、暮の秋など。


【秋の暮(上五)】
秋の暮毎日あつて淋しけれ 三宅嘯山
秋の暮水のやうなる酒二合 村上鬼城
秋の暮まだ目が見えて鴉飛ぶ 山口誓子
秋の暮水中もまた暗くなる 山口誓子
秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼
秋の暮溲罎泉のこゑをなす 石田波郷
秋の暮人恋しさの街に出て 能村登四郎
秋の暮子規に語れる虚子の聲 瀧春一
秋のくれ途方に暮れしにはあらず 八田木枯
秋の暮きのふにまさる暮ならむ 八田木枯
秋の暮ともかく終点まで行こう 池田澄子
秋の暮家路はいつも坂上り 山田弘子
秋の暮どの雪嶺がわれを待つ 齋藤愼爾
秋の暮吾が足音に振り返り 植田哲光
秋の暮通天閣に跨がれて 内田美紗
秋の暮山から山の動物が 寺澤一雄

【秋の暮(下五)】
此道や行く人なしに秋の暮 松尾芭蕉
枯枝に烏のとまりたるや秋の暮 松尾芭蕉
かれ朶に烏のとまりけり秋の暮 松尾芭蕉
死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮 松尾芭蕉
立出てうしろ歩や秋のくれ 服部嵐雪
門を出れば我も行人秋のくれ 与謝蕪村
去年より又淋しひぞ秋のくれ 与謝蕪村 
牛行くや毘沙門坂の秋の暮 正岡子規
ふるさとは山路がかりに秋の暮 臼田亜浪
日のくれと子供が言ひて秋の暮 高浜虚子
苔寺を出てその辺の秋の暮 高浜虚子
十人は淋しからずよ秋の暮 高浜虚子
さみしさに早飯食ふや秋の暮 村上鬼城
まつすぐの道に出でけり秋の暮 高野素十
遊女屋の使はぬ部屋の秋の暮 松本たかし
我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮 富田木歩
口あれば口の辺深し秋の暮 永田耕衣
キリストを借景と為す秋の暮 永田耕衣
みえてゐて瀧のきこえず秋の暮 久保田万太郎
マンホールの底より声す秋の暮 加藤楸邨
はたとわが妻とゆき逢ふ秋の暮  加藤楸邨
百方に借あるごとし秋の暮  石塚友二
うなぎやの二階にゐるや秋の暮 大場白水郎
反故焚いてをり今生の秋の暮 中村苑子
老人に追ひ抜かれをり秋の暮 能村登四郎
秋てふ文字を百たび書きて秋の暮 高柳重信
たかむらに竹のさまよふ秋のくれ 藤田湘子
牛の眼に雲燃えをはる秋の暮 藤田湘子
鯉老いて真中を行く秋の暮 藤田湘子
地下を出て地下より暗し秋の暮 藤田湘子
帽子掛けに帽子が見えず秋の暮 杉本 寛
あやまちはくりかへします秋の暮 三橋敏雄
このひととすることもなき秋の暮 加藤郁乎
女ゐてオカズのごとき秋の暮 加藤郁乎
天命は詩に老いてけり秋の暮 加藤郁乎
かげ口は男子に多し秋の暮 加藤郁乎
疲労困ぱいのぱいの字を引く秋の暮 小沢昭一
サーカスに売られてみたし秋の暮 皆吉司
伊勢海老の不思議のこゑを秋の暮 宇佐美魚目
子どもには子どもが見えて秋のくれ 八田木枯
沼べりの否応もなき秋の暮 岡本眸
淋しさに大きさのない秋の暮 安西篤
レーニンの脳の話や秋の暮 大木あまり
面影に手を入れてゐる秋の暮 柿本多映
魚籠さげて踏切ぬらす秋の暮 鷹羽狩行
電柱のまづ暗くなる秋の暮 鷹羽狩行
乗りてすぐ市電灯ともす秋の暮 鷹羽狩行
殺めては拭きとる京の秋の暮 摂津幸彦
自動車も水のひとつや秋の暮 攝津幸彦
商人に孔雀親しむ秋の暮 攝津幸彦
臍がしばらく背中にいるぞ秋の暮 坪内稔典
おとといの木は木のままで秋の暮 坪内稔典
はなれゆく人をつつめり秋の暮 山上樹実雄
子の喉の火柱見える秋の暮 高野ムツオ
校門をごろごろ閉ぢて秋の暮 本井 英
仰向いて天井古し秋の暮 辻桃子
学校の鶏鳴いてゐる秋の暮 辻田克巳
日本がすつぽり入る秋の暮 後藤信雄
提灯のうどんと灯る秋の暮 三村純也
知り尽す町に迷うて秋の暮 徳田千鶴子
家にゐて旅のごとしや秋の暮 長谷川櫂
親子して大きな鼻や秋の暮 津田このみ
子を呼びに出てたちまちに秋の暮  辻まさ野
さびしいと言へば絵になる秋の暮 櫂未知子
煙出しより煙出て秋の暮  片山由美子
しまうまの縞すれちがふ秋の暮 西原天気
スリッパの裏ましろなる秋の暮 小川軽舟
みごもりし腹も気球も秋の暮 仙田洋子
白旗のやうに身を振る秋の暮 仙田洋子
噴煙を噴火が照らす秋の暮 望月周
野をゆきて灯るものなし秋の暮 野崎海芋
目をつむるたび暗くなる秋の暮 岩田由美
耳かきが鼓膜に触れて秋の暮 近恵
つばさなき肺や膨らす秋の暮 小津夜景
薬局の壁ぢゆう棚よ秋の暮 野口る理
火不入の一献いかに秋の暮  田中惣一郎


→ 「秋の夕」の例句はこちら(作成中)

→ 「秋の夕べ」の例句はこちら(作成中)



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