小谷由果の「歌舞伎由縁俳句」【第8回】六代目尾上菊五郎の俳句

六代目尾上菊五郎の俳句

六代目尾上菊五郎は、俳名を「三朝」として、俳句も残している。

最も有名なのは、辞世のこの句である。

まだ足りぬをどり踊りてあの世まで 六代目尾上菊五郎

この辞世を詠んだのは、亡くなる前年の1948年(昭和23年)。その時に菊五郎はこの言葉も残している。

“人間の願望にこれでいいという満足の境地がないように、僕の踊にも満足がない。今日の踊は今日で、明日になれば過去のものになる。今日に満足出来ない僕は、又明日にも満足の出来ないであろう、そして一生僕は踊り踊って棺桶に入る日までも満足しないかも知れない” (『おどり』時代社)

辞世の他にも、いくつかの句が『六代目菊五郎傳』(昭和12年、新陽社)に収録されている。

『六代目菊五郎傳』(1937年、新陽社)筆者蔵

魚くさき町に入りけり夏芝居 三朝

三本の松うつしける夏の池 同

行水や軒の下なるあねいもと 同

蟋蟀が風呂に飛びける夜更かな 同

柿くふて日は暮れかゝる下山かな 同

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