苺まづ口にしショートケーキかな
高濱年尾
昨日、7月31日は、宮城リョータの誕生日。5月22日の三井に続き、本人不在の誕生日パーティを開いた。ちなみにハイクノミカタ、日曜日担当の細村星一郎さんはリョータと誕生日が近い。リョーチン、細村くん、お誕生日おめでとう。
ここまで、毎週、漫画(新装再編版)の1巻ごとに一句を取り上げてきた。今週は番外編、映画「THE FIRST SLAM DUNK」から。時系列としては、少し遡りインターハイへ出発の前日。その日、7月31日は宮城リョータの誕生日で、海の事故で亡くなった3歳年上の兄ソータの誕生日でもある。父親が亡くなっている宮城家は、リョータ、母親のカオル、妹のアンナの3人家族。夕食後、アンナが苺の誕生日ケーキを4つに切り分けている。今日でリョータは17歳、生きていたらソータは20歳になる(THE FIRST SLAM DUNK Blu-Ray 1:29:46〜1:31:56)
苺まづ口にしショートケーキかな
日本でショートケーキと言えば、ふわふわのスポンジを生クリームと苺でデコレーションしたもの、誕生日のケーキとしても定番だ。ケーキの苺をいつ食べるかは、人それぞれで、私は途中で食べることが多い。この句では、最初に苺を食べている。映画のリョータも苺から食べていた。思い切りの良い気持ちの良い食べ方だ。湘北の切り込み隊長と言われるだけのことはある。ところで、この「まづ口」という字面、どこか「口づけ」に形が似ていないだろうか。ケーキがまとう親しさや慈しみが、そう思わせるのかもしれない。
作者は、先週に引き続き高濱年尾。ホトトギス主宰、稲畑廣太郎の祖父に当たる。この句は、年尾が稲田登戸病院に入院していた時の病床餘祿と病床の俳句をまとめた『病間日誌』に収められている。病院は施設の老朽化のため2006年に閉院となったが、川崎市多摩区の跡地には、年尾の句碑〈そぞろ来て夜の梅林を抜けんとす〉が建っている。
翌朝、リョータは6時の新幹線で広島に向かうため、家族が寝ている間に家を出た。ソータのいない世界で、バスケだけが生きる支えだったリョータが、いよいよ全国制覇に挑む。団地の向こうに広がる海には、朝日が昇り始めている(THE FIRST SLAM DUNK Blu-Ray 1:33:34)。
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。