「けふの難読俳句」【第6回】「後妻/前妻」


後妻(うわなり)前妻(こなみ)

レベル ★★★★

使用頻度 ☆☆☆

<ジャンル> 家族・恋愛

<類語>後添い、後添え、継妻など


【例句】

後妻(うわなりのことごとに問ふ茎菜かな  黒柳召波
隠亡の後妻(うわなりめづる木菟の冬    西島麦南
なすの花後妻(うわなりの若く妊りぬ    畠山美恵
菜種殻うはなり打ちによかりけり 大石悦子
熱燗に舌滑らせて前妻(こなみ)の名    田代ひろえ 


【解説】「男+女+男」と書いて「(なぶ)る」と読むことを知ったとき、ひえー、漢字っておそろしいぜと思いましたが、「女+男+女」という漢字もあるんですよね。これ、ハーレムと読みます。冗談です。「うわなり」と読みます。ま、これは当て字なのですが。

「うわなり」はもともと「上鳴り」、つまり何かの上に何かを重ねることで、とくに笙などの笛を吹くときに使われてきた言葉。そこから「後妻」のことを「うわなり」と呼びならわすようになりました。上代は前妻または本妻以外の妻のこと、のちには再婚の妻を指すようになります。

いや、これね、きついっすよ。昔は、労働の自由とかないわけだし。

そんなわけで、「後妻」になるのは、覚悟がいります。命懸けです。前妻から妬まれますから。

「うはなり打ち」とは平安から中世にかけて存在していた風習で、離縁された先妻が後妻(うわなりのところへ、「いじめ」に行くことを言います(この「先妻」のことを昔は「こなみ」と呼んでいました)。前妻(こなみ後妻(うわなり)を憎むあまり暴力を振るう(あるいは人を使って振るわせる)こともありました。しかし一方で、前妻(こなみ後妻(うわなり)が仲睦まじいこともありえたそうで、実際のところはケースバイケースだったようです。

前妻(こなみ後妻(うわなり)にかかわる文芸としては、やはり能の「葵上」と「鉄輪」がすぐに思い出されます。

前者の元ネタはもちろん、源氏物語の六条御息所(前シテ)。車争いに敗れてつらい思いをしていると、葵の上をひどく打ちたたくシーンがあります。「あら浅ましや。六条の御息所程の御身にて、うはなり打ちの御振舞」と、言われてしまうのですが、いやいや、よくよく考えてみると、葵の上こそが正妻ですから、あんたが後妻(うわなり)じゃんと、六条御息所をツッコミを入れたくなってしまう。まあ、立場的には六条御息所のほうが上なので、そういう意味では、現代でいうところのハラスメントなわけですが。

「鉄輪」のほうは、男に捨てられて「鬼女」となってしまった女の怨念のおはなし。もちろん夫だけではなく、「命をとらむと(しもと)を振り上げ、うはなりの髪を手にからまいて、打つや宇津の山の夢うつつともわかざる憂き世に、因果は廻りあひたり」と、ほとんど脅迫まがいのことを言っている。最終的に、男の形代に襲いかかりますが、神力に退けられて、時機を待つと言って姿を消します。いつ帰ってくるかわからない、前妻の怨念。

色恋には、いつの時代も、揉め事がつきものです。大事なことは、話し合うこと、相手をリスペクトすること。ま、それができたら苦労しないんですけどね。


【「けふの難読俳句」のバックナンバー】

>>【第5回】「蹇」
>>【第4回】「毳」
>>【第3回】「象」
>>【第2回】「尿」
>>【第1回】「直会」


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

horikiri