けふの難読俳句

「けふの難読俳句」【第4回】「毳」


(にこげ)(むくげ)(けば)立つ

レベル ★★★★

使用頻度 ☆☆☆

<ジャンル> 身体・動物

<類語>産毛、和毛、柔毛など


【例句】

けだものに生まれ瞼にさえ(にこげ)    長岡裕一郎
生乳の(けば)立つほどに春めける    中村和弘
みちのくの(けば)立つ茅の輪くぐりけり 矢島渚男


【解説】やわらかい毛のことを「和毛」と書いて「にこげ」と読みます。というか、もともと「にこげ」という言葉があって、それに「和毛」という漢字を当てています。たまに「毳」という漢字を当てることがあり、この一字で「(にこげ)」と読ませるのですが、訓読みだと「(けば)立つ」となります。

きっと「けばだつ」は普通、漢字で書くなら「毛羽立つ」と書かれる方が多いのではないでしょうか。もともと、「毳」は、獣の細かい毛を意味しており、そこから毛皮や毛織物、フェルトなどの製品を指すようになりました。古代中国では、「冕服(べんぷく)」といって、ハイソな人たちが粗めの毛織りの衣服を身につけていたので、「毳衣(ぜいい)」というのは礼服や僧服のことを意味していました。

そのような経緯から、「にこげ」ないしは「むくげ」、あるいは「けば」という訓を当てたというわけです。

  つなげる糸に蜩の啼  其角

  瓢箪の(むくげ)のうちは葉がくれて  神叔

青木神叔は、江戸前期の俳諧師のひとりで、上の句は『萩の露』(1693)に収められています。「むく」というのは、「毛がふさふさとしていること」を指す言葉で、「尨」という漢字を当てるのが、一般的。瓢箪の果実は、最初皮に細かい毛がありますが、成熟すると毛が落ちて、つるつるになります。

だから厳密にいえば、「むくげ」と「にこげ」はニュアンスが少し違います。「にこげ」は、鳥のお腹のあたりの毛のイメージ、「むくげ」は犬の体毛のイメージです。昔のことばで、毛がふさふさしている犬のことを「むくいぬ」や「むくげいぬ」などと言いましたが、漢字で書くと「尨犬」となります。


【「けふの難読俳句」のバックナンバー】

>>【第3回】「象」
>>【第2回】「尿」
>>【第1回】「直会」


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