「けふの難読俳句」【第7回】「半月」

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半月(はにわり)

レベル ★★★★

使用頻度 ☆☆☆

<ジャンル> 性・身体

<類語>両性具有、二形、半陰陽など


【例句】

半月はにわり)や産み怺へ死に怺へつつ 三橋敏雄


【解説】かつて人気を博した漫画に高橋留美子の「らんま1/2」があります。主人公の早乙女乱馬は、水をかぶると女になってしまい、お湯を被れば男に戻るというもの。他に追随を許さぬドタバタ系格闘マンガでありながら、今から思えば、LGBTqの視点を先取りしているようなところさえあり、近年ではトランスジェンダー的観点から再評価されているのだとか。

水を浴びて「女」になった乱馬にとって、身体と社会的立場と内面の間の葛藤は望んでいるものではないからで、これはトランスジェンダーの人間が感じている肉体的・社会的違和感と非常に似ているからです。

しかし、乱馬のように身体が明確に肉体が男/女に分割されるのではなく(つまりMtFやFtMではなく)、むしろ分割できないがゆえに苦悩するケースもあります。パーセンテージとしては少ないですが、「インターセクシュアル」と呼ばれるもので、俗にいう「LGBTq」の括りにも入りません。ここに「I」を入れて「LGBTiq」とすることも少しずつですが、目にするようになってきました。

インターセクシュアルについては、ライター・シナリオライターの田平孝太郎さんの記事をご覧になってください。多くの場合は、インターセクシュアルの方でも「男」か「女」かの性自認があることが多いのですが、田平さんのように、「性別がない」と考える方(MtFやFtMではない「第三の性=Xジェンダー」の一つに含まれる)もいるそうです。

ともあれインターセクシュアルは、「身体的な性別を男性・女性として分類できない人や男性・女性として分類できない人や性別の染色体に何らかの異常がある状態の人」をさします。

女性器と男性器を両方もった人を「真性半陰陽」といいますが、かつてはこれを「半月はにわり)」と呼びならわしました。月の半分を男として、もう半分を女として過ごすことからついた名称です(「伊呂波字類抄〔鎌倉〕「半月 ハニワリ 十五日為男十五日為女之称也」)。「半割」の意味を込めた当て字であると思われます。

さて、上に掲出した三橋敏雄の句についてですが、亡くなる直前まで、三橋論を書いていた北川美美さんは、この「半月」がアンドロギュノスを意味しているという想定の上で、次のように鑑賞されています。

この句は、男も女も超越した性を通し、あるがままに普通に生きることが難しいという人生訓のように見える。人は男として生まれたので男らしく生きようとし、女として生まれたので女らしく振舞うよう躾けられてきた。そうではなく、両方の身体の一部を持っていたとしたらどうなのだろうか。男と女を超越することは難しい。逆に男も女もその性を越える存在になること、人として性を超越して理解し合うということは難しいということなのではないだろうか。

三橋敏雄『真神』を誤読する、2013年3月22日

この鑑賞を否定するわけではありませんが、Xジェンダーのように「男と女を超越する」ことは、当事者にとってはおそらく可能でしょう。難しいのは、それを非当事者が理解すること、社会全体のものとして理解することです。この敏雄の句からは、そのような性的マイノリティ、あるいはそれを産んでしまった母親の苦しみが、空前絶後の一句として、描かれているようにも思われます。


【「けふの難読俳句」のバックナンバー】

>>【第6回】「後妻・前妻」
>>【第5回】「蹇」
>>【第4回】「毳」
>>【第3回】「象」
>>【第2回】「尿」
>>【第1回】「直会」


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