コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年12月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2023年12月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイクを読む」、2023年もやりきりました! 今回は9名の方にご投稿いただきました。ありがとうございます。(掲載は到着順です)→2023年12月の「コンゲツノハイク」はこちらから


風鈴やさらりと触れし死後のこと

中岡毅雄

「いぶき」2023年11月号より

死後について触れているのは、作者か別人か、例えば、後者なら老齢の親が亡くなった後のことを伝えているのか。作者なら、妻か友人に、死後のことをさらりとかたっているのである。「死」は重く語りがちだ。だから、何気ない会話のうちに、触れられると、聞く方も、さりげなく聞けるのである。季語、風鈴が動かない。暑い日が続くなか、浄土から涼しい風が吹いてきた。作者もその風にのって、さらりと死後について触れたのかもしれない。

加瀬みづき/「都市」)


みな荷物多し今川焼の列

竹内優

「むじな」7号(2023年)より

スーパーの前か、催し物の会場か、はたまた駅前に、今川焼の屋台がある。そこに並ぶ人々が揃いも揃って荷物が多いのだという。今川焼の句として、目の付け所が実にユニークだ。今川焼はお腹が空いていれば買ってすぐに食べられるし、家族へのお土産にもなるし、なにより価格が安い。ぱっと思いついて買いやすいものなのかもしれない。列ができていれば尚更買いたくなる。そういうわけでみんな大荷物にも関わらず、今川焼の列に並ぶ。「みな」の大袈裟さに俳諧味がある。

千野千佳/「蒼海」)


秋暑し元気な人にもらふ鬱

吉野まつ美

「いには」2023年12月号より

SNSをやっているとやたら「リア充」を強調する輩に出会う。所詮盛っているだけであって真に受けなければいいのだが、ついつい自分の現実と比較して、「リア充爆発」などと嘯いてしまったりする。現代人の悲しい性だ。残暑の中でもやたら元気そうな人がいる。溌剌として活動的。海外旅行や趣味の話を吹きまくる。本人も「元気」を演じているのだろうが、句会等でこんな人に出会うとこちらは元気を吸い取られる。本来元気な人からもらうべきは「元気」のはず。掲句はそこをどんでん返して「鬱」とした。現代のリアリティーを詠んだ一句。

 種谷良二/「櫟」)


嘶ける姿に飾り茄子の馬

東畑孝子

「青山」2023年11月号より

「嘶ける茄子の馬」などとせずに「姿に飾り」と間に入って正直に丁寧に描いているところが好きです。飾っている御方のたくらみのない素直な人間味が滲み出ている。しかもこの馬は胡瓜じゃなくて茄子なのでずんぐりしている。それだけでものんびりしてユーモラスですが、曲がった蔕の部分をこうべを垂れるようにではなく、こうべを上げて「嘶ける姿」に脚をつけて満足気です。故人を思いながら、ちょっとしたいたずら心で楽しんでいる。故人もきっとその遊び心を受け入れてくれる方(方々)なのでしょう。彼岸と此岸がなだらかに繋がる世界を面白がることのできるおおらかな人びとの笑顔まで浮かんできました。

小松敦/「海原」)


菊膾食ふは紙屋の主人かな

村上瑠璃甫

「秋草」2023年12月号より

いいねぇ。菊鱠は紙屋の主人に食わせるに限らあ。コウゾだのミツマタだのってえ木の皮を剥いて洗って、細けえ手仕事で雑味を取ってだな、煮込んで揉んで、さて、そいつをたっぷりの水に混ぜ合わせるってえ時に草の根由来のネバネバでトロミを付ける。で、その仕込み液を型に掬って揺すりながら上澄みに均(なら)すんだぜ。茹で菊の酢和えみてえな微妙なもんを心底うめえと思うにゃあ、毎日(めえにち)そんな、いわば繊維暮らしをしてねえとな。なんなら食いながら頭ん中で菊の花びらを紙に漉き込んだりしてね。……とまあ、しがねえ勤め人の利いた風な御託さね。さてと、菊鱠で一杯といくか。

生倉鈴


違反車としてコスモスへ導かる

今井聖

NO.164より

何の違反?
車を止められて
コスモスの方へ誘導された。。。

もすもす、君!!
車にコスモス様と同じ色を
使ってはならん!!
ここはコスモス国だぞ!
しかもガソリン車は地球温暖化の原因だ!
違反だ!違反!!
モスモス*コスモ*コスコス*コスモス***!!

何それ?
何で?
ええ??
儂の車が!
わぁあっ!!
コスモスの花に!!
覆われてしまった。。。。

月湖/「里」)


天使魚の襞の奥まで照らされて

松野苑子

NO.164より

天使魚はエンゼルフィッシュの和訳。体高が高く、背襞・腹襞・尻襞が長く伸びているのが特徴。観賞魚として、これらの伸長する優雅な襞を楽しむのだとか。この大きな襞(ひれ)でゆったりと泳ぐさまが天使に例えられたのが名前の由来。色彩、尾襞の形状などが異なる複数の品種がいる。この句では、LED照明を使った水槽を優雅に泳いでいる姿を思います。幻想的な青白い照明が天使魚をより鮮やかに見せているのでしょう。

野島正則/「青垣」・「平」)


一灯式信号の沖すすき原

村一草

「雪華」2023年12月号より

名詞と助詞のみの句。写生句ではあるが、心象風景ともとれる。「一灯式信号」からは人通りの少ない寒々しい場所が見える。また掲句の「沖」は藤田湘子と能村登四郎の名句を想起させ、孤独や寂寥を感じさせる。さらに季語「すすき原」で秋の寂しさが置かれる。私は、肌寒く、薄暗く、人気のない場所を想像した。名詞のみだが視線は推移する。まず一灯式信号へと上昇、そして沖という奥行、最後にすすき原に焦点が合う。作者は何も形容せずに読者に寂寥感や孤独感を手渡す。この景に一人きりで立たされた私は、家に帰りたい、と思った。

北清水麻衣子


鬼ごつこの鬼はばつたを追ひかけて

小林弘和 

「橘」2023年12月号より

十数えたら逃げまわるみんなを追いかけるはずの鬼役の子。どうせつかまらないからもういいやと、ばったをつかまえることにしたのだろうか。わたしも逃げた子を見つけてつかまえる楽しさがわからない子どもだったから、この鬼の子の追いかける対象の転換はお見事と思った。

それとも、子どもの頃鬼ごっこでよく遊んだあの子は、今は昆虫博士になってばったを追いかけているらしいよ、ということだったりして。あの子が鬼になったらあっという間につかまっちゃって終わっちゃうね、という子が確かにいた。つかめそうでつかめないばったの神秘を、大人になった今、追い求めているのかもしれない。

藤色葉菜/「秋」)



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