【秋の季語=三秋(8月〜10月)】月

【解説】

秋は「月」。春の「花」、冬の「雪」とともに日本の四季を代表する景物。


【月(上五)】
月さして一ト間の家でありにけり 村上鬼城
月に行く漱石妻を忘れたり 夏目漱石
月の王みまかりしより国亡ぶ 高野素十
赤い月にんげんしろき足そらす 富澤赤黄男
月一つ聞く人多勢笛なけり 細谷源二
月が冷い音落とした 住宅顕信
日も月も宙にただよひ熊野灘 桂信子
月の中透きとほる身をもたずして 桂信子
月を見てをりたる父の論すこと 深見けん二
月にあり吾にもあるや蒼き翳 堀田季何
月を知る鳥は夜には従わぬ 赤野四羽

【月(中七)】
ある僧の月を待たずに帰りけり 正岡子規
月代は月となり灯は窓となる 竹下しづの女
ふるさとの月の港をよぎるのみ 高浜虚子
棹さして月のただ中 荻原井泉水
こんなよい月を一人で見て寝る 尾崎放哉
寝床まで月を入れ寝るとする 種田山頭火
葛飾の月の田圃を終列車 川端茅舎
きらめきて月の海へとながるゝ缶 横山白虹
夜々白く厠の月のありにけり 篠原鳳作
少年へ遠い月泛く埋立地 穴井太
球体の月を揚げたり甲子園 阿波野青畝
門を出て五十歩月に近づけり 細見綾子
わが世のあと百の月照る憂世かな 金子兜太
あとからあとから月の出寒い波頭 鈴木六林男
洋上の一個の月を分け合いぬ 宇多喜代子
かろき子は月にあづけむ肩車 石寒太
野を歩く月へのぼつて行くごとく 落合水尾
万骨のオラショに月や亡き城に 佐怒賀正美
泥棒の恋や月より吊る洋燈 大屋達治
瞬きに月の光のさし入りぬ 森賀まり

【月(下五)】
おもかげや姨ひとりなく月の友 松尾芭蕉
友と語れば海峡やがて月かかぐ 藤木清子
父がつけしわが名立子や月を仰ぐ 星野立子
妻いねて壁も柱も月の中 飴山實
あかあかと寶珠のごとき月のぼる 角川春樹
河よりもときどき深く月浴びる 森央ミモザ
逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子
命終の銛打つは誰そ月の夜 小林貴子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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