髪ほどけよと秋風にささやかれ
片山由美子
俳句をはじめたての人なら、「秋風に髪ほどけよとささやかれ」のほうが、定型のリズムにあっているのではないか、と思うかもしれない。しかし、それはまちがい。そのように言葉を組み合わせると、句末の切れが弱く、短歌のように七七をつけたくなってしまう。掲句のように、句またがりにすることによって、七・五・五のリズムになるわけだが、そうするとトータルでは17音であるにもかかわらず、どこか字足らずであるような錯覚を覚える。「ささやかれ」のあとには、長い空白が控えていて、それが短歌になることを妨げているのである。「定型の成熟」というのは、仁平勝の言だけれど、つまりこの句の「ささやかれ」は、文法的にいえば連用形であるにもかかわらず、「かな」や「けり」と同等の切れを句にもたらしている。その余韻(意味的には「ほどいた」ということ)が、冒頭の「髪ほどけよ」という呼びかけと合わさることで、心地よい風にふと気分が変わる女性の一瞬のこころがわりを、うまく詠み止めている。「香雨」2019年10月号より。(堀切克洋)
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