【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2025年9月分】

【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2025年9月分】


コンゲツノハイク」から推しの1句を選んで200字評を投稿できる読者参加型コーナーです。今月は8名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございます!



戦争ドラマ氷菓の棒を噛みながら

百瀬一兎
「炎環」
2025年8月号より

テレビやスクリーンの向こうの「戦争」は、現実でありながらどこか「娯楽」や「消費」として処理されている。その事実を、氷菓を食べるという身近な行為と並置することで、浮かび上がらせる。

氷菓を食べながらではなく、その「棒を噛みながら」である点が秀逸。

長く続く戦争ドラマ。リアルではもっと永遠の悲惨かもしれない。
それに対して、氷菓は一過性の甘み。氷菓の終わりの段階、冷たさの余韻、そして棒に歯が当たる音や感触まで想像させる。

映像の重苦しさと自分の口の中に響く軽い音が同居する不気味さ。そして、どこか他人事だと少し退屈に感じている私まで浮き彫りにされるようだ。

押見げばげば


サングラス犬の選びし道をゆく
青園直美
「ホトトギス」
2025年9月号より

犬の散歩は朝晩の涼しい時間帯に行うとはいえ、夏は朝晩も日差しが強い。この人はサングラスをかけて犬の散歩にでかけた。散歩コースを選ぶのは犬の方だ。あっちこっちと犬にリードをひかれ、この人はそれについてゆく。飼い主とペットの立場の逆転を詠んだ句はあると思うが、「犬の選びし道をゆく」のさっぱりとした表現に好感を持った。サングラスによって人間の見た目もすこし機械に近づいたような気分があり面白い。

千野千佳/「蒼海」)


紙の家用意されたる御器かぶり
村越陽一
「いには」
2025年9月号より

作者は、夏になると現れるあの大きな茶色い虫に悩まされ、退治するため家具の下などに「紙の家」をそっと忍ばせる。家の中に一度入るともう出られないことを知る由もなく、「御器かぶり」は赤い屋根に吸い寄せられるようにしてやってくる。
どうぞどうぞ、あなたさまの為に素敵なお住まいを用意いたしました、さぁお入りくださいと言わんばかりの恭しさが「用意されたる御器かぶり」という中七下五の表記に感じられ、思わず笑みがこぼれてしまう。
紙の家に入っていく御器かぶりの命運を思うと不憫な気がしてくるところに、ユーモアと優しさが感じられる。

さざなみ葉/「いぶき」)


遠吠えのやうなサイレン明易し
小関由佳
「炎環」
2025年8月号より

目覚まし時計が鳴りだす少し前に、サイレンの音で目が覚めた。救急車かパトカーだろうか。家の火災報知機ではない。遠吠えという措辞から、遠くで鳴っているものを思わせる。車であればこれから近づいてくるかもしれない。このサイレンは直接自分に関わってくるものではない。遠吠えもそうだ。でもこれらは何かを訴えるものとして共通している。体を横たえたまま、聴覚だけがそれに反応している。過去のできごとと離れつつ迎えた新しい朝と響き合い、もの悲しい。

弦石マキ/「蒼海」)


うたた寝の唇動く夕立かな
田口茉於
「秋草」
2025年9月号より

視界の中で動くものにふと気づいて顔をあげると、夕立のようだ。すぐ傍でうたた寝をする人へむけた何気ない視線が同時に夕立を捉える。人と自然の調和した日常がある。「夕立かな」に、うたた寝をする者とそれを見る者との暖かくしっとりとした関係性も感じる。身体も心も落ち着いて、ゆったりとした気分になる句だ。

小松敦/「海原」)


欠伸して穴に入つてゆきし蛇
池末朱実
「ホトトギス」
2025年9月号より

春に穴から出てきて夏は活発に活動した蛇。秋彼岸を過ぎると、寒さが増し、冬眠のため穴に入り込む。冬眠前には、栄養を蓄えるため、お腹いっぱい食べたのか。人間のように、欠伸をして穴へ入っていくという措辞がユーモラス。

野島正則/「青垣」「平」「noi」)


背の高さ胸の高さに赤とんぼ
山崎ひさを
「青山」
2025年8月号より

蜻蛉の飛び方は、同じ高さを保ちつつの水平移動が多く、しかも、ある程度同じ範囲の中を行き来する場合が多い印象。

掲句の「背の高さ胸の高さ」は、ひとりの人の背と胸と捉えることもできますが、私には、一緒にいる親子の景が浮かびました。
子の背の高さは、親の胸の高さ、そのレベルを行き来する赤とんぼ。もしかしたら、子と父親とを見守る母親の目線なのかもしれません。
仲睦まじい家族の姿と、そこを飛び交う赤とんぼ。優しく柔らかな秋の時間であります。

卯月紫乃/「南風」)


うたた寝の唇動く夕立かな
田口茉於
「秋草」
2025年9月号より

うたた寝の人の唇が動く。そこからは、静かな呼吸や夢の切れ端が漏れてきそうな気がする。寝言の何か、声にならない何かが作者に聞こえたのかもしれない。うたた寝の人がいて、優しく見守る作者がいて、甘美で親密な雰囲気がそこにある。が、決してそれだけではない。昼間の暑さを纏ったままの夕立が重くのしかかる。激しい雨音の、薄暗く重い湿気を含んだ空気の中に閉じ込められたようにふたりはいる。
もう少し先、夕立は過ぎ去るだろう。そうして、うたた寝から目覚め、唇を動かし、息を漏らし、ふたりは何かを話し始める。
「夕立かな」の余韻の中で、私はそれを待ちたくなる。

菅井香永/「南風」)



【次回の投稿のご案内】
◆応募締切=2025年10月5日
*対象は原則として2025年9月中に発刊された俳句結社誌・同人誌です。刊行日が締切直後の場合は、ご相談ください
◆配信予定=2025年10月10日
◆投稿先 以下のフォームからご投稿ください。
https://ws.formzu.net/dist/S21988499/

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