【冬の季語】短日/日短 暮早し

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【冬の季語=初冬〜仲冬(11〜12月)】短日/日短 暮早し

【解説】昼と夜の時間が等しくなるのが「秋分」であり、夜が最も長くなるのが「冬至」ですが、ちょうどこの「ど真ん中」が「立冬」です。二十四節気の関係があたまに入っていない方は、まずこちらを見てください。

日本総菜協会のホームページより)

つまり、冬になったということは、どんどん日が短くなっていくということ。こんな時間でもう暗くなるんだ、という感慨が「短日」です。(「立春」に向かって)日が伸びてきたなあ、という晩冬の感慨は「日脚伸ぶ」という季語に凝縮されています。非常に幾何学的な関係性ですね。

さて、お手元の歳時記を開いてみると、明治以前の句はほとんど載っていないはずです。かろうじて、一茶に

日短かやかせぐに追ひつく貧乏神

がありますね。これが「文政句帖」に載っています。しかし一茶とて「短日」の作例は、この一句のみ。これ以前に「短日」の句があったのかどうか? あったら教えてくださいね。

ここには大きな疑問が潜んでいます。江戸の人たちは、ひょっとして「日が短くなってきたなあ」という感慨をもっていなかったのか?ということです。

和歌の世界で昔から詠まれてきたのは、「秋の夜長」でした。

今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む 家持
長き夜を衣うつなる槌の音のやむときもなく物を思ふよ 俊成

こんなふうに「夜長」は大きなテーマのひとつでした。〈ながき夜を疝気ひねりて旅ね哉 鬼貫〉〈出るかと妖物をまつ夜長哉 几董〉〈長き夜や心の鬼が身を責る 一茶〉と、俳諧でも数多く詠まれてきました。

考えてみれば、「枕草子」で清少納言が褒めてたのは、「冬はつとめて」つまりぴりぴりと肌を刺すのような「朝」であって、まだ早い時間からとっぷりと暮れてしまう「夕方」ではなかった。まあ、電灯もない時代には、冬の夕暮れなんて、褒める要素なさすぎですわな。

近代以降には、都市化が進んで街や家の中の照明も増え、夜の移動も可能になったことで「短日」をいとおしむ心の余裕が出てきたのかもしれません。「あらあら、日が短くなってきたわねえ」って、どこか余裕がないと、言えないものだと思いませんか。もし収穫の時期も終わって仕事がほとんどなく、家にテレビもパソコンもない生活だったら、「あらあら」なんて言えないと思いませんか?

というわけで、じつは「短日」という季語には、ある種の〈心の余裕〉が含まれている、とみることもできるのではないでしょうか。日が短くなっていく〈焦り〉のその奥にある〈心の余裕〉。

しかし問題は、どうして一茶がさっきの句を作ろうと思ったのか、です。その謎は研究者にまかせたいと思いますが、「かせいだお金」があっというまになくなってしまうという〈焦り〉を笑うだけのユーモア=〈余裕〉がどこからしらに感じられるのは、気のせいでしょうか?

ちなみにこの季語、(下五に置かれたときにはとくに)「日短か(ひ・みじか)」と一拍おいて四音だけど字足らずにならないように使うことができます。

【関連季語】神の留守、十一月、冬めく、初霜、時雨など。


【短日】
短日の石つまづけとばかりなる 久保田万太郎
短日やうすく日あたる一トところ 久保田万太郎
短日やされどあかるき水の上 久保田万太郎
短日の照らし終せず真紅ゐ 川端茅舎
短日の鸚鵡に呼ばれたる顔よ 細川加賀
短日の梢微塵にくれにけり 原石鼎
短日や盗化粧のタイピスト 日野草城
短日の灯をともす間の筆を措く 後藤夜半
短日の海あることのやゝ淋し 高野素十
短日のジープが運ぶ日本人 池禎章
短日の午より月の濃かりけり 皆吉爽雨
短日や岬のあざみ色うすく 鈴木真砂女
短日の空よりはづす小鳥籠 文挾夫佐恵
短日の望遠鏡の中の恋 寺山修司
短日やまざと紙幣の穢を指に 中島斌男
逢へば短日人しれず得ししづけさも 野澤節子
短日の兎に白き山ばかり 宇佐美魚目
ガラス戸に額を当てて短き日 深見けん二
短日の郵便局へ銀行へ 嶋田摩耶子
短日や西へ灯す秋津島 矢島渚男
短日や一つ買ひ足す間に暮れて 花田いつ枝
短日の素手で取りたき母の骨 大木あまり
短日の崖にぶつかる鳥獣 宇多喜代子
短日や茹でて青菜のこれっぽっち 池田澄子
短日の燃やすものもうないかしら 池田澄子
短日や木に掛けておく縄電車 太田寛郎
短日の浄水場の灯し頃 西村和子
短日の護岸嵩上げしてをりぬ 広瀬峰雄
短日の鳥居の下の韮を摘む 岸本尚毅
短日やありまき翅を得て翔ぶも 依光陽子
短日の人と自分と並びたる 鴇田智哉
短日や子どもの走る家具売場 涼野海音

【日短】
日短かやかせぐに追ひつく貧乏神 小林一茶
うせものをこだはり探す日短か 高濱虚子
いもうとの告別式よ日短か 京極杞陽
山の辺の道どこまでも日短 星野立子
とつぷりと遊びて須磨の日短 田畑美穂女
よらでゆく島に手を振る日短か 吉屋信子
用多き机のメモや日短か 吉屋信子
人間は管より成れる日短 川崎展宏
あたたかき日は日短きこと忘れ 後藤比奈夫
塔頭の箒目つよし日短か 大峯あきら
日沈む方へ歩きて日短か 岸本尚毅
動物園入口に蛇日短 江渡華子

【暮早し】
暮早し神田・銀座に用つなぎ 荒井正隆
暮早しキリコの少女ゐる街も 仙田洋子


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