大凶を引くこんな夜は根深汁 朝妻力【季語=根深汁(冬)】

大凶を引くこんな夜は根深汁

朝妻力

おみくじの結果に一喜一憂する人もいれば、単なる遊びとして見ている人もいる。しかし除夜詣や初詣のように年の区切りとして引くおみくじの結果ならば話は別。大吉を引けば嬉しいし、小吉や凶だと結んで帰った人も少なくないはず。なら大凶はどうか。凶それも大と付けば「お前はどん底からのスタートだ!せいぜい精進せい」と諌められているような心地にもなり、こんな日の夜には何かホッとする温かいものが欲しくなる。ここで登場するのが根深汁だ。

根深とは土を盛り上げて白い部分を長く育てたねぎの別名で、端的に言えばねぎの味噌汁のこと。大凶を引いたら験直しにパッと贅沢な物を食べるのも楽しくていい。しかし掲句からは根深汁という「ハレとケ」の概念なら断然「ケ」にある普通のごはんを食べ、大凶に落ち込みつつも粛々と受け入れる様子が描かれている。中がとろりと煮えた大ぶりのねぎを食べ、旨味が溶けた熱々の汁を啜れば「ま、いっか。頑張ろ!」と前向きな気持ちでホッと息をつく姿も浮かんでくるだろう。

大凶はおみくじの中では最も良くない運勢であるが、裏を返せばこれより落ちることもない。そして根深汁はメインディッシュとしての派手さはないが、だからこそ沈んだ気持ちをニュートラルまで戻してくれる「いつものごはん」だ。落ち込んでもまずはいつも通りの食事をして前を向こう。大丈夫だから。

(「雲の峰」主宰 朝妻力 句集「伊吹嶺」より)

さて今回の掲句の季語は根深汁。この根深汁を語るには切り離せない作家に池波正太郎がいます。もとより食通で知られる彼の作品には頻繁に料理の描写がありますが、特に根深汁は代表作である「剣客商売」や「鬼平犯科帳」を中心に度々登場する隠れた名物とも言える逸品です。また食のエッセイ「味と映画の歳時記」においては
  『鶏皮を少し入れた葱の味噌汁はこの椀で酒も飯もすませてしまうことができるほど、私の好物なのだ』
という一節が。

確かに油揚の味噌汁や豚汁のように脂のコクが加わるとねぎの旨味もより引き出されるもの。とは言え、酒も飯も済ませるにはあと1〜2品欲しいなと感じる私はまだまだ根深汁初心者ですね。

そこで今回は池波正太郎流の根深汁をアレンジした根深汁&おつまみ鶏皮ねぎポン酢の献立をご紹介します。

用意するのは太めの長ねぎと鶏皮、だし汁とみそ。出汁は顆粒でも出汁入り味噌でも大丈夫。分量はいつも家庭で飲む作りやすい量でどうぞ。

まず太めの長ねぎのうち白い部分は一口大、青い部分は斜め薄切りもしくは小口切りに。鶏皮は一口より小さめ(約2cm角)に切り、先に鶏皮を鍋で脂が出るまでじっくり焼く。※鶏皮は爆ぜやすいので火傷にご注意!

少量の鶏皮でもかなりの脂が出るので、もしも脂が多すぎるな…と感じたら別の容器に移してください。こちらは炒飯や野菜炒めの隠し味にも。出てきた脂で鶏皮がパリっとしたら脂は鍋に残して別皿へ。ここに刻んだ青ねぎを散らしてポン酢をかけ、お好みで七味を散らしたらちょっとしたおつまみに。

そして鶏の脂が残った鍋で白ねぎにさっと火を通し、表面に軽く焦げ目が付いたらあとは普段通りの味噌汁の作り方で。鍋にだし汁を加え、ねぎの芯まで火が通ったら味噌を溶き入れて池波流の根深汁が完成です!

一人分を作るには少し大変だな〜という方はインスタントの味噌汁でも大丈夫。その際はトースターで温めたねぎと塩味の焼き鳥缶の脂部分を少々加え、お湯を注げばお手軽根深汁に。青ねぎは刻んで焼き鳥缶と一緒にどうぞ。

師走も中旬に入り、いよいよ年末年始の準備や受験期の追込みで忙しくなる頃ですね。その中では大凶を引いたように落ち込むこと、やりきれないことも沢山出てくると思います。そんな時は掲句のようにほっとひと息、いつものごはんでお腹を温めましょう。大丈夫、大凶を引いたら後は這い上がるだけだから。それでは皆さまご自愛くださいませ!

佐野瑞季


【執筆者プロフィール】
佐野瑞季(さの・みずき)
1997年静岡県生まれ
雲の峰」所属 超結社句会「四季の料理帖」代表
第17回鬼貫青春俳句大賞
夢はかまくらの中でお餅を焼くこと
・E-mail:kigotabekukai@gmail.com
・X @Sano_575
・Instagram @sano_575
・四季の料理帖X @kigotabe
・四季の料理帖Instagram @shikinoryoricho



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