下萌や鉄管ぐわらりぐわらり積む 平野山斗士【季語=下萌(春)】

下萌や鉄管ぐわらりぐわらり積む

平野山斗士

 「子どもがいてもいなくても酒は美味いですよ」
 新大久保の居酒屋で、そう言った。

 二月の俳人協会の若手句会にはじめて参加した。
 公益社団法人 俳人協会・俳句文学館:催し物:若手句会 第80回 2月13日

 下萌の句はその若手句会に出された句だ。一目で気に入って選に入れて披講した「ぐわらりぐわらり」の語感がかなり鉄管の重なる音の感じが出ている。
 下萌の地面に積まれる鉄管、土の匂い草の匂いそこに鉄と機械の匂いが続く。鉄管と土の出会い、自然と建築現場の労働との始まりの騒がしさもとっても気持ちがいい。地面が鉄管を受け入れて重みを感じているのもいい感じだ。濁音も土や労働にぴったりだ。
最高に気持ちがいい。
 しかし、先生方の選の時に気が付いた。これ「ぐわらりぐわらり」じゃない「がらりがらり」って読むんだ。わー恥ずかしい、まあ恥ずかしい。私の間違いに誰も触れないのもいたたまれない。「表記がいいですよね」のさりげないフォローもつらい。
 こういうのも句会の面白さだ。

 超結社の句会に参加するのはほぼはじめてだった。その日は師匠がいらしたので、結社の仲間も何人かいた。句会ではありがたいことに自分の句に高点をいただき、その後の懇親会にもついていった。街を夜に出歩くのは緊張する。居酒屋で隣の席になった先輩とビールで乾杯しながら。子どもの有無の話になった。私は三人子どもがいる先輩は子どもがいない。でも、子どもを生んでいてもいなくても、酒は美味いし句会は面白い。

 下萌と鉄管という異質なものが出会うように、句会では俳句をやっているということだけで人々が出会う。安曇野で子育てをして療育をしてパートの主婦をしている私が、俳句をやっている東京の人や先生や、俳句で生活している人たちと俳句論で酒を飲む。
なんて不思議なんだろう。
 朝起きて、きっと夢だったんだと思った。それでも、句が残っているのが夢ではない証拠だった。俳句は俳句単独で鑑賞することももちろんいい。でも、日記のように、あるいは写真のように自分だけの思い出に紐づけて残しておくこともできる。
 この句はいい句だ。きっと句集で見ても好きになったと思う。
それでも、この若手句会で出会った思い出が一緒になった句として、私はこの句を忘れないと思う。

吉川千早


【執筆者プロフィール】
吉川千早(よしかわ・ちはや)
長野県安曇野市在住
」同人 俳人協会所属
第10回新鋭評論賞受賞
・E-mail:chihayayosikawa@gmail.com
・X @chiyochihaya



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