【秋の季語=仲秋(9月)】十六夜
「十五夜」(旧暦8月15日)の翌日。ちなみにその翌日は、「立待月」。
【十六夜(上五)】
いざよひもまだ更科の郡哉 松尾芭蕉
十六夜や海老煮るほどの宵の闇 松尾芭蕉
いざよひや慥にくるゝ空の色 向井去来
十六夜やゆふべの酒は残らぬか 尾崎紅葉
いざよひの薄雲情あるごとく 西島麦南
十六夜の三島たち来て品川や 久保田万太郎
十六夜の雲深ければ五位わたる 山口青邨
十六夜やふるき坂照る駿河台 水原秋櫻子
十六夜のきのふともなく照らしけり 阿波野青畝
十六夜の天渡りゆく櫓音かな 河原枇杷男
十六夜や間違ひ電話の声に惚れ 内田美紗
「十六夜ネ」といった女と別れけり 永六輔
十六夜の妻は離れて眠りをり 石川桂郎
十六夜やちひさくなりし琴の爪 鷲谷七菜子
十六夜や少し猫背に見舞夫 鍵和田釉子
十六夜の小瓶の中のさくら貝 甲斐よしあき
十六夜の坂をハーハー登つて下る 池田澄子
十六夜に蹴つて鮑の殼なりし 山尾玉藻
十六夜の内侍がうつすものがたり 筑紫磐井
十六夜や手紙の結びかしこにて 佐土井智津子
十六夜や手は親指のまづ眠り 柳生正名
十六夜や道のいつしか川に添ひ 木内怜子
十六夜の紙が手紙となりにけり 宮本佳世乃
十六夜の髪にこぼるる鋏かな 宮本佳世乃
十六夜の十七音に書く本音 神野紗希
【十六夜(中七)】
雲黄色く十六夜の月出でんとす 寺田寅彦
桑畑に出て十六夜の月を見し 細見綾子
峯風絶景十六夜秘曲・百済琴 高柳重信
置忘れ来し十六夜の女傘 岸田稚魚
チエロケースより十六夜の子供出づ 皆吉司
空つぽの鳥籠十六夜のひかり 廣瀬悦哉
阿呆面して十六夜の月眺め 栗田麻紗人
【十六夜(下五)】
メビウスの輪に姉がゐる十六夜よ 大屋達治
舌に付く一本の髪十六夜は 宮崎斗士