【秋の季語=三秋(8月-10月)】虫
古来から秋の虫の鳴き声が愛でられてきたことは、枕草子の「虫は 鈴虫。松虫。はたおり。きりぎりす。蝶。われから。ひをむし。蛍。蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みければ、親に似て、これもおそろしき心地ぞあらむとて……」の一節からもわかるが、俳諧が嗜まれた江戸の世では、郊外まで出掛けていって虫の音を愉しむ「虫聴き」や、市中まで売りにくる「虫売り」が存在した。
冬が近づいて冷え込んでくると、虫の鳴き声もだんだんと少なくなってくるが、そのころの虫のことを「残る虫」という。
旧漢字では「蟲」。
【虫(上五)】
仇し野や露吸ふ虫の聲三里 正岡子規
虫の音に浮き沈みする庵かな 高浜虚子
千の蟲鳴く一匹の狂ひ鳴き 三橋鷹女
虫鳴いて裏町の闇やはらかし 楠本憲吉
蟲鳴きて海は暮るるにいとまあり 鷲谷七菜子
【虫(中七)】
彼方の男女虫の言葉を交わしおり 原子公平
闇に鳴く虫に気づかれまいとゆく 酒井弘司
【虫(下五)】
勉強の音がするなり虫の中 飴山實