<笹飴>
この笹飴は、正月の帰省のときに買った。小説『坊ちゃん』で清が「越後の笹飴が食べたい」と言っていた、あの笹飴だ。笹に包まれた素朴な飴とぼんやり覚えていたが、ひさしぶりにこの地元の銘菓を食べたくなった。北陸新幹線の上越妙高駅の土産売り場のいいところに、笹飴は売られていた。職場へのお土産としては奇天烈すぎるので、自分用に買った。
(新潟県上越市 髙橋孫左衛門商店)
ぱりぱりに乾燥した大きな笹の葉の二つ折りをひらくと、べろりと飴がなすりつけてある。飴に笹の香りが見事にうつっている。笹から剥がした飴を口にいれたとたん、飴は奥歯に張りついた。飴の力はすさまじく、無理に力を加えれば歯の詰め物がとれると思った。あきらめて飴は歯にくっつけたまま、舌で溶かしていくことにした。そうして歯から剥がれた飴を上あごにくっつけて最後まで舐め切った。笹飴の包装には「絶対にかまないでください」と書かれていた。それも何回も書いてあった。現代の飴玉の要領で口に入れると大変なことになる。
(千野千佳)
【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年 新潟県生まれ。
2016年 作句をはじめる。堀本裕樹氏に師事。
2018年 「蒼海」立ち上げとともに入会。
2021年 第2回蒼海賞受賞
2023年 第11回星野立子新人賞受賞