
【第4回】
流感
森の日の嘆きかたむく雪蛍 堀口星眠
昭和32年の作。解説に「森の家」を借りていた頃を懐かしみ、とあり、この時期には「森の家」を手放していた。掲句は星眠のなかの在りし日への追憶が濃厚に感じられる句である。堀口医師は昭和30年に医局を辞して、安中の実家の医院を継いでいる。星眠としては、このあと高原や山岳の自然のなかの詩情を俳句として昇華し、馬酔木の有力作家として活躍することになるが、医業を詠んだ句もいくつか残されている。
医師迎ふ仔豚の顔や流感期 堀口星眠
往診の句であろう。往診先では思いがけないことに遭遇し、驚くことも度々である。星眠も、往診先の家で図らずも仔豚に出会い、おかしみを感じたのかもしれない。感冒が流行っている時期における医師としての仕事の緊張感と、患家の仔豚の無邪気な顔の対比が面白い。読者諸兄も流感に気を付けて、よい年末年始をお過ごしください。
(庄田ひろふみ)
【執筆者プロフィール】
庄田 ひろふみ(しょうだ・ひろふみ)
昭和51年生、平成11年より天為同人
令和7年 第一句集「聖河」上梓
