集いて別れのヨオーッと一本締め雪か池田澄子【季語＝雪（冬）】

ハイクノミカタ

集いて別れのヨオーッと一本締め　雪か　池田澄子【季語＝雪（冬）】

2022/12/29
ハイクノミカタ, 橋本直
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集いて別れのヨオーッと一本締め　雪か

池田澄子
（『シリーズ自句自解Ⅰベスト100　池田澄子』）

忘年会のシーズンも終盤。コロナ前よりガクンと減ったとはいえ、今年は去年よりは対面での飲食の機会が多くなっているのではないだろうか。状況はもうなにも心配はいらないといえるほど良くなってはいないはずなのに、多少無理をしてでもコロナ前の日常に戻したい空気を醸成する意志を表に出す人が増えた感じがするから、世の中はもう非日常に我慢できなくなってきたということなのだろうか。どうやらスペイン風邪の時もまあそんな感じだったみたいだから、そうやって種として滅ぶリスクより日常生活の反復をとりかねない生き物なのだとすると、これが人類の生物としての性能の限界なのかもしれない、などと妙なことを思ってしまう。

さて、掲句はこんな世の中になる前の、ある年の忘年会の解散時の景色。一本締めなどのいわゆる手締めで終わる風習をもつ集まりは世に多かったろうと思う。手締めの由来は物事がうまくいったことの関係者への感謝の儀式としてらしいのだけれど、忘年会のそれは一年のけじめとしての意味も強いように思う。筆者の以前いた句会では、某大手建築会社の社長だった方がいて、忘年会の終いに手慣れた感じで関東一本締めを披露してくれていたのを思い出す。自解によればこの句は、あの「面」の忘年句会に出した句であるそうだ。句そのものが「面」の忘年会の場面の描写とは書いてはいないが、その句会に「先生」もいたというから、つい一本締めの場にいる三橋敏雄の姿を想像してしまう。一本締めで会が終われば、やがて集まりの高揚感も消え、少し寂しさを抱えつつそれぞれ家路につくことになる。句末の一字空けは「正気に戻る一瞬の空白の確保である、つもり」とのこと。このあたりの機微、ついもう一軒とだらだら飲んでしまう側である筆者には、その空白のあとの独白のある種の潔さ、格好良さが欠けているのだろう、と感じられる。ともあれ、本連載も今年最後の記事となりました。来年もまだしばし続けることになりそうです。皆様よいお年をお迎えください。

（橋本直）

【執筆者プロフィール】
橋本直（はしもと・すなお）
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」（邑久光明園）俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』（2011年）、『鬼』（2016年）いずれも私家版。第一句集『符籙』（左右社、2020年）。共著『諸注評釈新芭蕉俳句大成』（明治書院、2014年）、『新興俳句アンソロジー何が新しかったのか』（ふらんす堂、2018年）他。

【『池田澄子 (シリーズ自句自解―ベスト100)』】