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鉄橋を決意としたる雪解川 松山足羽【季語=雪解川(春)】


鉄橋を決意としたる雪解川

松山足羽


どこの鉄橋であろうか。Wikipediaによれば作者は福井市出身とあるから、雪深い北陸の川か。雪国の、それも大きな川なら、川幅いっぱいに濁った水が勢いをもって轟々と流れる。それは、春の息吹というより春の咆哮といった方が実感に近い。

掲句、「決意としたる」の主語は川とも取れるし、作者自身とも取れる。前者とすれば、いったん鉄橋の橋桁で遮られた川水が、そこを抜けたとたんに激流となって流れ落ちる光景を擬人化したということになる。その川の流れの速度変化のダイナミズムを「決意」という一語で表現したところが眼目であろう。

一方で、主語が作者自身であるなら、列車に乗って鉄橋を越えたときに決意が固まったという句意になる。川のこちら側まで、あるいはあちら側からが故郷という意識があったのかもしれない。故郷から出るときか、帰郷のときか。どちらにしても何か決意が必要だったのだ。列車に乗っている間の逡巡が、「橋」という境界を契機として決意に変わる。「鉄橋」を構成する鉄の硬質さ、谷底からの高さ、空へと響き渡る音もみな、その決意の揺るぎなさの象徴と受け取ることができるだろう。

このふたつの解釈はどちらか一つが正解というわけではなく、おそらくその両方の視点が輻輳することによって、句の豊かさがもたらされているのではないか。

「鉄橋」(2010年)所収。「角川俳句大歳時記」より引いた。

鈴木牛後


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)


【鈴木牛後のバックナンバー】
>>〔24〕つちふるや自動音声あかるくて  神楽坂リンダ
>>〔23〕取り除く土の山なす朧かな     駒木根淳子
>>〔22〕引越の最後に子猫仕舞ひけり      未来羽
>>〔21〕昼酒に喉焼く天皇誕生日       石川桂郎
>>〔20〕昨日より今日明るしと雪を掻く    木村敏男
>>〔19〕流氷は嘶きをもて迎ふべし      青山茂根
>>〔18〕節分の鬼に金棒てふ菓子も     後藤比奈夫
>>〔17〕ピザーラの届かぬ地域だけ吹雪く    かくた
>>〔16〕しばれるとぼつそりニッカウィスキー 依田明倫
>>〔15〕極寒の寝るほかなくて寝鎮まる    西東三鬼
>>〔14〕牛日や駅弁を買いディスク買い   木村美智子
>>〔13〕牛乳の膜すくふ節季の金返らず   小野田兼子
>>〔12〕懐手蹼ありといつてみよ       石原吉郎
>>〔11〕白息の駿馬かくれもなき曠野     飯田龍太
>>〔10〕ストーブに貌が崩れていくやうな  岩淵喜代子
>>〔9〕印刷工枯野に風を増刷す        能城檀 
>>〔8〕馬孕む冬からまつの息赤く      粥川青猿
>>〔7〕馬小屋に馬の表札神無月       宮本郁江
>>〔6〕人の世に雪降る音の加はりし     伊藤玉枝
>>〔5〕真っ黒な鳥が物言う文化の日     出口善子
>>〔4〕啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々   水原秋桜子
>>〔3〕胸元に来し雪虫に胸与ふ      坂本タカ女
>>〔2〕糸電話古人の秋につながりぬ     攝津幸彦
>>〔1〕立ち枯れてあれはひまはりの魂魄   照屋眞理子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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