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とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな 松本たかし【季語=焚火(冬)】

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とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな

松本たかし
『松本たかし句集』

焚火はアウトドアの醍醐味の一つ。木の種類や乾き具合、置き方で燃え方も異なり、どういう風に燃やしていくか木と火と対話しながら、はじめは強めに、落ちつくと火点を狭めて消えない程度に焚いてゆくのを個人的には好むが、きっとひたすら派手にメラメラと燃やす焚火が好きな人もいるだろう。さて、掲句のはどのようだったろう。

掲句の成立の背景はしらないけれども、この焚火は寺社の境内とか、庭や畑というよりも、湖の畔のキャンプ場のような広がりのある景が似合うのではないだろうか。「暮れゐし」だから「暮れていた」わけで、体験を事後的に回想したものと読めなくもないが、焚火に心をうばわれているうちに、ふと気づけばあたりはすっかり日が落ちて、火のある所以外まわりはすべて暗くなっていた、と読むのが良いように思う。そこで焚火に夢中で気づきの遅れたまわりの暗さを「とつぷりと」「暮れゐし」と表現しつつも、そっちを主役にはしていないので、「焚火に暮れにけり」というような焦点化にはならず「焚火かな」。高野素十にも「大榾をかへせば裏は一面火」という薪を燃やした経験のある人にはよくわかる句があるのだけれど、もしかすると、彼らは焚火好きだったのかもしれない。

『松本たかし句集』の「冬」の焚火の句は6句あって、

  鶏頭を目がけ飛びつく焚火かな

  山深く逢ひし焚火や一あたり

  とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな

  朝々の独り焚火や冬たのし

  焚火跡濡れゐる上に散紅葉

  三つ池の二つが見ゆる土間焚火

これらの句を読むと、たかしはどちらかといえば落ち葉焚きのような日常の意味でなく、ただ暖をとるという実利的目的でもなく、今風のアウトドア愛好家の焚火のように、薪を燃やす行為そのものが好きだったんじゃないかという気がしてくる。他にも、「恵那十日句録」では、吟行で小鳥猟に行った時の句群があって、恣意で抜くと

  大霧の霽れかゝるより小鳥狩

  酒沸いて小鳥焼けたり山は晴

  小屋の炉に焼けゐる鳥や渡鳥

  小鳥狩したるその夜の小句会

  鶸焼くや炉縁にならぶ皿小鉢

という風に、野趣ある句がたくさんならんでいる。もともと渡りや猟の用語を合わせて用いたものを「小鳥」のみでも歳時記に載せて季語に用いることを是としたのは虚子なのだが、これらの句をみるとこの時のたかしは小鳥の単独使用は実践していない。それはさておくとして、松本たかしという俳人のイメージは、病気療養生活とか能とか鼓とか、どちらかといえばインドアの要素が大きく、あまりこのようなアウトドア趣味のありそうな人とは思っていなかったので、これらの句をみつけて意外な気がしたのだが、実際は案外アウトドア派だったのかもしれない。

橋本直


【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。


【松本たかしの世界へようこそ…!】


【橋本直のバックナンバー】

>>〔111〕冬枯や熊祭る子の蝦夷錦      正岡子規
>>〔110〕夢に夢見て蒲団の外に出す腕よ   桑原三郎
>>〔109〕手を入れてみたき帚木紅葉かな   大石悦子
>>〔108〕秋の餅しろたへの肌ならべけり   室生犀星
>>〔107〕どれも椋鳥ごきげんよう文化祭   小川楓子
>>〔106〕古池や芭蕉飛こむ水の音        仙厓
>>〔105〕秋海棠西瓜の色に咲にけり     松尾芭蕉
>>〔104〕幾千代も散るは美し明日は三越   攝津幸彦
>>〔103〕海に出て綿菓子買えるところなし   大高翔
>>〔102〕駅蕎麦の旨くなりゆく秋の風     大牧広
>>〔101〕茄子もぐ手また夕闇に現れし    吉岡禅寺洞
>>〔100〕汽車逃げてゆくごとし野分追ふごとし 目迫秩父

>>〔99〕天高し深海の底は永久に闇     中野三允
>>〔98〕なんぼでも御代りしよし敗戦日   堀本裕樹
>>〔97〕おやすみ
>>〔96〕もの書けば余白の生まれ秋隣   藤井あかり
>>〔95〕利根川のふるきみなとの蓮かな  水原秋櫻子
>>〔94〕夏痩せて瞳に塹壕をゑがき得ざる  三橋鷹女
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>>〔91〕とらが雨など軽んじてぬれにけり    一茶
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>>〔87〕六月を奇麗な風の吹くことよ    正岡子規
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>>〔28〕おにはにはにはにはとりがゐるはるは  大畑等
>>〔27〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ   波多野爽波
>>〔26〕花の影寝まじ未来が恐しき      小林一茶
>>〔25〕海松かゝるつなみのあとの木立かな  正岡子規
>>〔24〕白梅や天没地没虚空没        永田耕衣
>>〔23〕隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな  加藤楸邨
>>〔22〕幻影の春泥に投げ出されし靴     星野立子
>>〔21〕餅花のさきの折鶴ふと廻る       篠原梵

>>〔20〕ふゆの春卵をのぞくひかりかな    夏目成美
>>〔19〕オリヲンの真下春立つ雪の宿     前田普羅
>>〔18〕同じ事を二本のレール思はざる    阿部青鞋 
>>〔17〕死なさじと肩つかまるゝ氷の下    寺田京子
>>〔16〕初場所や昔しこ名に寒玉子     百合山羽公
>>〔15〕土器に浸みゆく神酒や初詣      高浜年尾
>>〔14〕大年の夜に入る多摩の流れかな   飯田龍太
>>〔13〕柊を幸多かれと飾りけり       夏目漱石
>>〔12〕杖上げて枯野の雲を縦に裂く     西東三鬼
>>〔11〕波冴ゆる流木立たん立たんとす    山口草堂
>>〔10〕はやり風邪下着上着と骨で立つ    村井和一
>>〔9〕水鳥の夕日に染まるとき鳴けり    林原耒井
>>〔8〕山茶花の弁流れ来る坂路かな     横光利一
>>〔7〕さて、どちらへ行かう風がふく     山頭火
>>〔6〕紅葉の色きはまりて風を絶つ     中川宋淵
>>〔5〕をぎはらにあした花咲きみな殺し   塚本邦雄
>>〔4〕ひっくゝりつっ立てば早案山子かな  高田蝶衣
>>〔3〕大いなる梵字のもつれ穴まどひ     竹中宏
>>〔2〕秋鰺の青流すほど水をかけ     長谷川秋子
>>〔1〕色里や十歩離れて秋の風       正岡子規


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