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あさがほのたゝみ皺はも潦 佐藤文香【季語=朝顔(秋)】


あさがほのたゝみ皺はも潦)

佐藤文香


クローゼットをあけたときお店みたいに衣類が整頓されていたら気分がいいなと思い、たたみ方を動画で調べた。

Tシャツを3カ所つまんで一瞬でたたむやり方を真似してやってみたら思いのほか簡単にできた。で、気分を良くして今度はドレスシャツをたたんでみたのだけど、こっちはぜんぜんうまくいかない。

しばらく練習していたら、ドレスシャツをたたむということ自体に疑問がわいてきた。だってそもそもの形がたたむようにできていないんだもん。一見きれいにたためても、見えないところがしわしわになってるし、襟の立体部分だって重ねればぺしゃんこになるし。小さく薄い長方形になり、重ねて収納できる浴衣や着物ってどれだけ合理的なデザインなんだろうと思う(ただしファッションが合理的であるべきかについては大いに議論の余地がある)。

   あさがほのたゝみ皺はも潦  佐藤文香

佐藤文香『菊は雪』より。端正なたたずまいが好きだ。まず朝顔の襞を「たゝみ皺」に喩えるのがありそうでない。また「たゝみ皺」から漂う古風さもいいし、「ゝ」も襞を模しているようで面白い。「潦」は雨上がりの地上にたまり流れる水で、枕詞として使われていたその昔は恋のイメージと親しかった言葉だが、それを念頭において読み直すと「あさがほ」に「朝の顔」が掛かっていたことに気づき、そこはかとなくきぬぎぬを連想させる。で、きぬぎぬ(衣衣)は共寝をした男女の衣服の重なりを意味しているため、ここで「たゝみ皺」がふたたび活きてくる。「はも」という強い詠嘆も、朝顔の襞をみて何かを感じた作者の心中を「さあ覗け」と読者に煽っているかのようだ。    

小津夜景


🍀 🍀 🍀 季語「朝顔」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記


【小津夜景のバックナンバー】
>>〔48〕かき冰青白赤や混ぜれば黎      堀田季何
>>〔47〕けさ秋の一帆生みぬ中の海       原石鼎
>>〔46〕おやすみ
>>〔45〕藍を着古し/棚田の/父祖の/翳となる 上田玄
>>〔44〕カルーセル一曲分の夏日陰        鳥井雪
>>〔43〕ひと魂でゆく気散じや夏の原     葛飾北斎
>>〔42〕海底に足跡のあるいい天気   『誹風柳多留』
>>〔41〕ひまわりと俺たちなんだか美男子なり  谷佳紀
>>〔40〕かけろふやくだけて物を思ふ猫      論派
>>〔39〕木琴のきこゆる風も罌粟畠       岩田潔
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>>〔27〕退帆のディンギー跳ねぬ春の虹    根岸哲也
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>>〔24〕止まり木に鳥の一日ヒヤシンス   津川絵理子
>>〔23〕行く春や鳥啼き魚の目は泪        芭蕉
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>>〔19〕あかさたなはまやらわをん梅ひらく  西原天気
>>〔18〕さざなみのかがやけるとき鳥の恋   北川美美
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>>〔15〕コーヒー沸く香りの朝はハットハウスの青さで 古屋翠渓
>>〔14〕おやすみ
>>〔13〕幾千代も散るは美し明日は三越    攝津幸彦
>>〔12〕t t t ふいにさざめく子らや秋     鴇田智哉
>>〔11〕またわたし、またわたしだ、と雀たち 柳本々々
>>〔10〕しろい小さいお面いっぱい一茶のくに 阿部完市
>>〔9〕凩の会場へ行く燕尾服        中田美子
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>>〔7〕後鳥羽院鳥羽院萩で擲りあふ     佐藤りえ
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>>〔2〕ポメラニアンすごい不倫の話きく   長嶋 有
>>〔1〕迷宮へ靴取りにゆくえれめのぴー   中嶋憲武



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