ハイクノミカタ

ひまわりと俺たちなんだか美男子なり 谷佳紀【季語=ひまわり(夏)】


ひまわりと俺たちなんだか美男子なり

谷佳紀


セクト・ポクリットが始まってもうすぐ一年というこのタイミングでひとつ裏話をすると、この「ハイクノミカタ」は実は一句鑑賞のコーナーではなかったりする。

ではなんのコーナーなのかというと、連載開始時に管理人から執筆者に対してなされた説明では「見出しで1句とりあげるということだけが条件で、あとは何をしても自由のフリースペースであると考えてください。ウェブらしさを活用しながら自由に遊んでいただけると幸い」との趣旨だった。それがいつしかハイクノミカタ=句評欄の色合いにまとまり、よそのサイトと似通ってしまっている。

他の執筆者の句評は読み応えがあるので現在の状態で続いてほしい。問題は自分だ。もともと碌なことを書いていないこのわたしこそ、もっと俳句と無関係であるべきなのかもしれない。と思いつつ、今週はいつもどおり一句を引く。

ひまわりと俺たちなんだか美男子なり   谷佳紀

谷佳紀遺句集『ひらひら』より。谷佳紀の作品はさながらワインのごとき香りの雑駁さが持ち味で、まっすぐな気性からは長岡裕一郎を、情景のフレーミングの卓抜さからは杉崎恒夫をわたしは連想してしまう。で、長岡と杉崎なのだから言語世界に傾いた句を書くのかというと全くそうではなく、むしろ言語の岩場をざくざくと踏みしだいた果てに野っ原に出てしまったというべき、すこぶるあっけらかんとした作風なのだ。掲句は作者の気分が乗り移ってこちらまでうきうきしてしまう。見た目は徒手空拳を装い(あくまでも装いである)、俳風狂句を繰り出すことを恐れないところもすがすがしい。

小津夜景


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記


【小津夜景のバックナンバー】
>>〔40〕かけろふやくだけて物を思ふ猫      論派
>>〔39〕木琴のきこゆる風も罌粟畠       岩田潔
>>〔38〕蟭螟の羽ばたきに空うごきけり    岡田一実
>>〔37〕1 名前:名無しさん@手と足をもいだ丸太にして返し  湊圭伍
>>〔36〕おやすみ
>>〔35〕夏潮のコバルト裂きて快速艇     牛田修嗣
>>〔34〕老人がフランス映画に消えてゆく    石部明
>>〔33〕足指に押さへ編む籠夏炉の辺     余村光世
>>〔32〕夕焼けに入っておいであたまから    妹尾凛
>>〔31〕おやすみ
>>〔30〕鳥を見るただそれだけの超曜日    川合大祐
>>〔29〕紀元前二〇二年の虞美人草      水津達大
>>〔28〕その朝も虹とハモンド・オルガンで   正岡豊
>>〔27〕退帆のディンギー跳ねぬ春の虹    根岸哲也
>>〔26〕タワーマンションのロック四重や鳥雲に 鶴見澄子
>>〔25〕蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に     林雅樹
>>〔24〕止まり木に鳥の一日ヒヤシンス   津川絵理子
>>〔23〕行く春や鳥啼き魚の目は泪        芭蕉
>>〔22〕春雷や刻来り去り遠ざかり      星野立子
>>〔21〕絵葉書の消印は流氷の町       大串 章

>>〔20〕菜の花や月は東に日は西に      与謝蕪村
>>〔19〕あかさたなはまやらわをん梅ひらく  西原天気
>>〔18〕さざなみのかがやけるとき鳥の恋   北川美美
>>〔17〕おやすみ
>>〔16〕開墾のはじめは豚とひとつ鍋     依田勉三
>>〔15〕コーヒー沸く香りの朝はハットハウスの青さで 古屋翠渓
>>〔14〕おやすみ
>>〔13〕幾千代も散るは美し明日は三越    攝津幸彦
>>〔12〕t t t ふいにさざめく子らや秋     鴇田智哉
>>〔11〕またわたし、またわたしだ、と雀たち 柳本々々
>>〔10〕しろい小さいお面いっぱい一茶のくに 阿部完市
>>〔9〕凩の会場へ行く燕尾服        中田美子
>>〔8〕アカコアオコクロコ共通海鼠語圏   佐山哲郎
>>〔7〕後鳥羽院鳥羽院萩で擲りあふ     佐藤りえ
>>〔6〕COVID-19十一月の黒いくれよん   瀬戸正洋
>>〔5〕風へおんがくがことばがそして葬    夏木久
>>〔4〕たが魂ぞほたるともならで秋の風   横井也有
>>〔3〕渚にて金澤のこと菊のこと      田中裕明
>>〔2〕ポメラニアンすごい不倫の話きく   長嶋 有
>>〔1〕迷宮へ靴取りにゆくえれめのぴー   中嶋憲武



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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